CRAFTROCK BREWING(東京都)のはなし
何度も繰り返し聴きたくなる曲のように どこまでもクリーンで、いつ飲んでも心地良いビールを
CRAFTROCK BREWING
東京都中央区
2019年9月、東京都中央区日本橋の「コレド宝町テラス」にオープンした「CRAFTROCK BREWPUB & LIVE」は、店内にライブスペースと醸造所「CRAFTROCK BREWING」を併設したブルーパブ。運営するのは2011年の虎ノ門店を皮切りに、クラフトビールを手頃な均一価格で提供することで消費者の裾野を広げたビバアー「クラフトビアマーケット」を展開する株式会社ステディワークスです。2014年からビールと音楽を融合したライブイベントも主催し、「音楽とクラフトビールのカルチャーを繋げ、 ミュージシャンをサポートするビールメーカー」をコンセプトに掲げています。ヘッドブルワーの鈴木諒さんにお話を聞きました。
クロスオーバーする音楽×ビール 「曲を再現するビール」で世界はもっと広がる。
クラフトビールと音楽って、本当に相性がいいんですよね。
おいしいビールを飲むと気持ちよく酔えるように、心地いい音楽に包まれると満たされた気分になる。どちらもつくり手であるブルワーやミュージシャンが、個性や世界観、品質にこだわって、品質を追求する姿勢の部分で共鳴するからだと思います。
ミュージシャンに話を聞くと、曲作りとビール造りって似たところがあるんです。
作曲ではイントロやAメロ、Bメロ、サビといったフレーズごとにつないで、全体のバランスを整える。どんな風に曲を展開していくのか、構成を考えながら、フレーズをつなぐパーツを考えてまとめていくそうですが、醸造も大まかな流れでいえば、麦芽やホップ、酵母といった原料というパーツをかけ合わせて、全体のバランスを調整していく作業です。原料パーツの品質も大切ですが、つなぎ方やバランスのとり方で全体の印象は大きく変わります。創作するものは違っても、そのプロセスには近いものがあるんですよね。
CRAFTROCK BREWINGは、さまざまなバンドとコラボして、曲をイメージしたビールを造ることが多いので、そういったミュージシャンの話は刺激を受けるし、ブルワーとしても勉強になります。それに、好きなバンドのビールを造れるのも幸せなことです。お店で開催するライブで、ミュージシャンがMCで自分の手掛けたビールについて語ってくれたときはすごくうれしいですしね(笑)。
音楽から生まれたビールは、そのミュージシャンのファンだけが楽しむものではなくて、知らない人であればビールを通じてバンドや曲を知ってもらうきっかけになるし、曲のストーリーや由来を知れば、どちらもさらに味わい深くなる。広がりが期待できるんです。
最近では、CRAFTROCK BREWINGでインストバンド (※1)「fox capture plan」のニューアルバムをイメージしたビールを醸造しました。野生のハチから分離した「ラカンセア酵母」という新しい酵母を使ったサワーIPAです。サワービールの一般的な製法は、発酵前の麦汁に乳酸菌を添加するケトルサワーリングですが、「ラカンセア酵母」は発酵過程で乳酸を生み出す個性的な酵母。アルバムタイトルの『DISCOVERY』に合わせて、新しいサワービールを造ろうと思って初めて使ってみました。
「曲をイメージしたビール造り」なんて、僕が普通に醸造だけをしていたら携わることはなかったでしょう。CRAFTROCK BREWINGだからこそ、互いの境界線を越えて音楽とビールが交じり合う新しい展開に携わることができるんだと思います。
(※1) インストゥルメンタル(instrumental)バンドの略称。歌詞(ボーカル)がなく、楽器のみを演奏するバンド形態。
ビール醸造のトレンドをリードする アメリカンクラフトビールにどっぷり浸って
僕が初めてクラフトビールに触れたのは大学生の頃。
静岡市の大学の近くで、よく飲み会で利用していた居酒屋チェーンで「御殿場高原ビール」が飲めたんです。だいたい1~2種類を提供していて、ピルスナー以外のビールがあることを知りました。就職を機に横浜に住むといろんなお店でクラフトビールを飲むようになって、おもしろさにどんどんハマったんです。やがて飲む方から造る方に興味の対象が移って、20代半ばでビール業界への転職を考えはじめました。
そのとき縁があったのが、2011年にオープンした神田の「デビルクラフト」でした。
当時はまだ珍しいアメリカのクラフトビールとシカゴピザを売りにしたお店で、アメリカ人オーナー3人が共同経営するビアバーです。将来的に自社ブルワリーを持つ計画があったので、ホールスタッフとして働き始めたのがビール業界に飛び込んだ第一歩でした。
アメリカンクラフトを取り扱うようになってから年1回は渡米して、これまでに30州ぐらいのブルワリーを巡りました。日本で取り扱いのないメーカーも山ほどありますし、トレンドの最前線に触れることは経験値になります。どんなに輸入したビールを丁寧に管理していても、現地の空気や文化を肌で感じながら、醸造所のベストコンディションで飲むビールに勝るものはありませんから。
2013年には浜松町店もオープンしてビアバーとしては順調でしたが、デビルクラフトがブルワリーを開設したのが2015年。建物の条件や、設備の輸入手続きに時間をとられて、やっとのことで製造免許を取得して品川で醸造を始めました。僕も店長を経験して、ようやくブルワーとしてのステップを踏むことに。
醸造技術はホームブルーイング経験のあるオーナーから学んだり、ブルワー同士のつながりでさまざまなブルワリーで仕込みを手伝ったりして身につけていきました。お店で提供するビールの他に、飲食店の周年記念ビールやアメリカのブルワリーとのコラボしたビールなど、あらゆるスタイルのビールを繰り返し仕込むことで、醸造経験を積んでいった感じでしょうか。アメリカのビール醸造学会に参加したり、酵母会社やホップ会社のもつデータを参考にして取り入れたり、アメリカは醸造テクノロジーの最前線にあるので、ビール業界の動向には常にアンテナを張っていましたね。
CRAFTROCK BREWINGの代表、田中とはその頃から交流がありました。
当時は都内でもクラフトビール専門店が少なかった頃。デビルクラフト神田店と田中が経営する「クラフトビアマーケット」1号店、虎ノ門店のオープンが同時期で何かとつながりがあったんです。僕も音楽が好きだったので、2014年からステディワークスが主催していた音楽とビールのイベント「クラフトロックフェスティバル」の手伝いもしていて、音楽とビールのかけ合わせというコンセプトには心から共感できました。音楽とビールでミュージシャンを応援するブルーパブ構想はブルワーとしてもおもしろそうだなと。一からビールのコンセプトとレシピを考えて造ることができる自由度の高さにも惹かれて、CRAFTROCK BREWINGのヘッドブルワーに就任したんです。
ビールも音楽のようにライブ感、その場で生み出したものを楽しむのが一番なので、併設のパブでは「サービングタンク」といって、タンク直結のサーバーからビールを注ぐシステムを採用しています。日本ではまだ珍しいサービングシステムです。
CRAFTROCK BREWINGの軸は、ビールと音楽。
本当に良い音楽は、何度聴いても飽きません。
僕が醸造で追求するのも、繰り返し聴いてもまた聞きたくなる曲のように「どこまでもクリーンで、何杯も飲めるもの」。 必要最小限の要素で構成された雑味のないビールです。そして音楽と同じように心が躍るもの、ワクワク感のあるはっきりとした味わい。
音楽もビールも、生活になくても生きていける嗜好品ですが、それがない人生は味気ないもの。いつでも飲んでも心を満たしてくれるビールを届けたいと思います。
取材・文/山口 紗佳
ビールの多くは音楽にインスパイアされたもの。曲をイメージしてデザインしています。「ビールの縁側」では鮮度を保った樽生で味わえるので、フレッシュなビールを心地よい音楽とともに、お好きなシチュエーションで楽しんでください。
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