8Peaks Brewing(長野県)のはなし
お客さんの笑顔を近くで感じられる喜び。
八ヶ岳の食や自然に寄り添うビールでその笑顔を増やせたら
8Peaks Brewing(長野県)山岸 勇太
長野県茅野市
長野県のほぼ中央である南信地方に位置する茅野市は、エリアごとにさまざまな表情をもつ地域です。蓼科や白樺湖、車山高原といったアウトドアやレジャーを楽しめる高原リゾートから、標高3,000m級の山々が連なり世界中の登山者が集まる八ヶ岳エリア、全国各地の諏訪神社の総本社である諏訪大社に代表される歴史文化が凝縮したまちなかエリアなど、多彩な観光資源をもっています。2018年、茅野市で開業した8peaks BREWINGは、八ヶ岳を名前の由来にしたマイクロブルワリー。現在ブルワーを務める山岸勇太さんにお話を聞きました。
南信地方、人を喜ばせるモノづくり、尊敬できる仲間。 自分になじむものが、すべてここにありました。
ビールって、造り手と飲み手の距離が近い飲み物だと思うんです。
学生時代に醸造所でブルワーさんに話を聞いたり、アルバイトとしてイベントでビールを売ったりしているうちに、僕はどんどん“ そっち側 ”になりたいと思うようになりました。イベントでブースを手伝っていると、お客さんが「これがおいしかった」ってビールの感想を伝えてくれたり、「この食べ物と合うよ」とビールに合う料理をおすすめしてくれたり、すごくフレンドリーに接してくれるんですよ。酔っぱらって気が大きくなってるせいもあるでしょうけど(笑)。ビールって、人を笑顔にして、相手との距離を縮めてくれる飲み物なんだと改めて実感する瞬間ですね。
そのときの僕はブルワーではありませんでしたが、就職を考える時期になったとき、お客さんの反応を近くで感じられる仕事につきたいと思うようになりました。自分が好きなものを好きって言ってもらえるとうれしいですよね。自分が手掛けたものをお客さんが喜んでくれると「今よりさらに良いものを造りたい」「もっと楽しませたい」という励みにつながります。それがブルワーを目指したきっかけのひとつですね。
代表の齋藤(※1)に出会ったのは、大学2年に所属していたゼミ活動。
長野大学の企業情報学部で、組織運営や企業の経営戦略について学んでいた僕は、クラフトビールをゼミの研究テーマにして、長野県のブルワリーを回って取材していました。歴史のあるブルワリーを中心に、企業としてどう成長を遂げてきたのか、そういったお話を聞いていたんです。たいてい話を聞くことが中心でしたが、学内の広報誌取材で8Peaks BREWINGを訪れたとき、初めて醸造を体験させてもらえることになったんです。
麦汁をかきまぜたり、使うホップに触れたり、初めて現場で仕込みを手伝ってみるとすごくおもしろくて。機械いじりやインテリア雑貨のDIYなど、モノづくりは好きだったので、いつの間にか話を聞く側よりビールを造る側への興味が沸いてきたんです(笑)。
それが2019年7月、大学4年の夏です。
大学4年の夏といえば、就職先が決まりだす時期。
周りも次々と内定をもらっていましたが、こだわりが強かった自分はピンとくるものがなくて、ようやく県内のビールメーカーに絞って就職活動を始めたところでした。ところがなかなかご縁がなくて途方に暮れかけていたとき、人づてに僕がブルワリーの就職を探していることを耳にした齋藤から「うちでブルワーとしてやってみる?」と声をかけてもらえたんです。住み慣れた南信地方にあるブルワリーで、ビール造りの楽しさを教えてくれた場所、そして何よりも、人として尊敬できる斎藤と一緒に働けるという、僕としてはこの上ない環境が揃っていました。
花農家出身の斎藤は、製薬会社で会社員として務める傍ら、花や植物の効能を調べるうちにホップ栽培を考えるようになったそうです。そこからホップを原料とするビール醸造に興味をひかれてドイツのブルワリーを巡り、地元の酒造メーカーや各地のブルワリーで醸造を学んだというエネルギッシュな人物。何度か飲みに連れて行ってもらい話をするうちに、常に地域と事業の未来を見据えながら仲間を大切にする斎藤の人柄にも憧れて、「信頼できるこの人と働きたい」と思うようになっていました。こうして大学卒業後の2020年の4月からブルワーに就任。僕としてはまさに拾ってもらった感じですね(笑)。
(※1)8Peaks BREWINGを運営する株式会社エイトピークスの代表で、初代ブルワーを務めたのが齋藤由馬さん
地元の人がなじんだ方言を使って、 県外の人には興味をもってもらえるように。
醸造に関しては何もかもが初めてですから当初は毎日必死。覚えることが多いし、慣れない作業ばかりで3か月間は全力疾走でした。最初は覚えるだけで精一杯で目の前のことしか考えられない状態でしたが、少しずつ斎藤から任せてもらえる工程が増えて、醸造作業全体を見通せるようになってきたのが8月ぐらい。この頃から醸造全般を一任されるようになって、視野も広がってきました。最初はレシピ通りに造るだけでしたが、作業に慣れると余裕も生まれます。そこで、少しでもビールの品質を上げるために、仕込み工程を見直してみたんです。醸造所開業から1年でレシピも安定していたからこそ、細かいテコ入れでさらにおいしくできるんじゃないかって。
例えば発酵しやすくするためにモルトミルで破砕する麦芽のサイズを変えてみたり、マッシング(※2)の温度や時間を変えてみたり、一つ一つの工程で仮説を立てて検証。設備のクセも掴めるようになってきたので、うちのビールにとってどの状態・製法が最適なのか、実験を繰り返してブラッシュアップしていきました。非効率だった事務作業もマニュアル化、自動化して業務改善。時短できれば、その分できた余裕はビールの品質向上や新しい取り組みのために使えますしね。
こうして2020年の夏に新登場したのが「Quocoira Ale(ココイラエール)」。
八ヶ岳山麓で栽培された「信州早生」という国産ホップを100%使った、花や桃のような華やかな香りが特徴の飲みやすいエールです。「ここいら」は「このあたり」という意味の方言。定番の「Yai Yai Pale Ale(ヤイヤイペールエール)」「Meta Wheat Ale(メタウィートエール)」に続く準レギュラーとして加わりました。8Peaksの商品名はどれも諏訪地方の方言にしています。「ヤイヤイ」は「おいおい」という呼びかけや驚きなどを表す言葉、「めた」は「すごく」「どんどん」という意味です。地元の人がなじんだ言葉を使って、県外の人に興味を持ってもらえるようなネーミングから、ビールを楽しんでもらいたいと思って。
ビールのレシピは八ヶ岳や諏訪圏の食文化に合わせたものを意識しています。
味噌や醤油など地元の発酵食品や、シカやイノシシなどの信州に伝統的に伝わる野生鳥獣肉など、地域の郷土食と一緒に味わうことで、より豊かな時間を過ごしてもらいたいと思っているからです。楽しい時間の引き立て役、食卓の笑顔を増やすビールが目指すところ。そしてSNSやメディアを活用して、雄大な自然に抱かれた八ヶ岳の麓から、「ビールのある暮らし」の魅力を積極的に発信していきたいと思っています。ゆくゆくは「8Peaksのビールを飲むために八ヶ岳に来た」と言ってもらえるようなビールに成長できたら。
(※2)麦芽に含まれるでんぷんを糖に変える糖化工程。麦芽をお湯に浸すことで麦芽中の酵素を活性化させて、でんぷんを酵母が食べられる糖質やアミノ酸に分解する。
取材・文/山口 紗佳
長野県のほぼ中央である南信地方に位置する茅野市は、エリアごとにさまざまな表情をもつ地域です。蓼科や白樺湖、車山高原といったアウトドアやレジャーを楽しめる高原リゾートから、標高3,000m級の山々が連なり世界中の登山者が集まる八ヶ岳エリア、全国各地の諏訪神社の総本社である諏訪大社に代表される歴史文化が凝縮したまちなかエリアなど、多彩な観光資源をもっています。2018年、茅野市で開業した8peaks BREWINGは、八ヶ岳を名前の由来にしたマイクロブルワリー。現在ブルワーを務める山岸勇太さんにお話を聞きました。
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