HANAZONOCRAFT花園クラフト(大阪府)のはなし
花園のスクラムロードに響く酵母の歌。
ラグビーの聖地で元SEが奏でる第2の人生
HANAZONOCRAFT花園クラフト
大阪府東大阪市吉田
ラグビーの聖地として知られる大阪府東大阪市の花園ラグビー場。数々の熱戦が繰り広げられてきたスタジアムに続くメインストリート「スクラムロード」の一角に、街のランドマークとなるブルワリーが誕生しました。「ものづくりのまち」としても有名なこの地で、2025年1月にオープンしたのが「HANAZONOCRAFT花園クラフト」。スポーツと人々の活気が交差するこの場所で、実直なビール造りに励む高橋伸介さんにお話を聞きました。
聖地「花園」の熱気と、勝利を祝う「桜」の香り

「ラグビーの聖地」花園。ここには独特の熱気があります。
花園クラフトがあるのは、近鉄奈良線、東花園駅から花園ラグビー場へと真っ直ぐに伸びる「スクラムロード」。試合が開催される日は全国から来た大勢のファンが行き交い、街全体がスタジアムの歓声に包まれるような高揚感に満ち溢れます。
そんな場所だからこそ、生まれた限定ビールがあります。
ラグビー日本代表のジャージに輝く「桜のエンブレム」。あの誇り高き桜にちなんで、生駒山の桜のチップと葉をビールに漬け込み、香り付けをしたビールです。勝利の祝杯や、試合後の余韻に浸るのにふさわしい一杯に仕上げました。
お店には、ファンの方々はもちろん、ラグビーチームのコーチやフロントスタッフといった関係者や、ご家族の方も足を運んでくださいます。店内のテレビで試合を流していると、カウンターでグラスを傾けているコーチが解説を始めてくれることも。プロ目線の解説を聞きながらビールを飲む。スタジアムの熱狂とはひと味違った、ここでしか味わえない贅沢な時間が流れているんです。

現役選手は身体が資本ですから、シーズン中にビールを飲みに来ることは稀ですが、選手やハンドルキーパー、お子様に人気なのがもう一つの花園クラフト名物「クラフトコーラ」です。その話はまた後ほど(笑)。
「ビールというのは、人と人とをつなぐツールなんだよ」
生まれ故郷である花園で醸造所をはじめようと思った根っこには、ある記憶があります。
「ビールというのは、人と人とをつなぐツールなんだよ」

商売をしていた祖父がよく口にしていた言葉です。
子供心に刷り込まれたこの言葉が60代になった今、指針になっています。知らない人同士がたまたま隣り合わせになり、ビールを介して会話が生まれ、縁が広がる。全国あらゆる場所から来た初対面のファン同士が乾杯する姿を見ると、祖父のこの言葉を思い出すんですよね。
醸造家になる前までは、長年システムエンジニアとして働いてきました。
パソコン創成期、記憶媒体がカセットテープだった時代から40年間です。「ピーヒョロロ〜」という読み込み音を聞きながらコンピュータを起動させる、そんなアナログ時代からずっとデジタルの世界に身を置いてきました。
ビールに興味を持ったきっかけは、専門学校時代の卒業旅行ですね。
1980年代、1ヶ月かけてヨーロッパを巡ったんです。フランスから入って、イタリア、スペイン、もう一回フランスに行って、イギリスに渡ってという感じで1ヶ月ぐらい。ドイツが東西に分断されていた時代だったのでドイツには行けませんでしたが、ロンドンのパブで初めて飲んだエールビールの衝撃は今でも忘れられません。当時の日本にはラガーしかありませんでしたから、味わったことのない豊かな香りと味わい深さに「これがビールなのか?」と雷に打たれたような感覚になったんです。
それから出張のたびに各地の地ビールを飲み歩くのがライフワークになりました(笑)。北は北海道から南は九州・沖縄まで、おいしい地ビールがあるところを見つけては飲みに行って。中でも特に印象に残っているのは、関門海峡の近くにある「門司港ビール」のヴァイツェンや、青森の「Be Easy Brewing」、函館の「ozigi brewing 函館麦酒醸造所」ですね。
カセットテープの電子音から、酵母が奏でる生命の音へ
そんな私が醸造家を目指そうと決意したのはコロナ禍の頃。
定年が近づいてきて「第2の人生」を考えたとき、頭に浮かんだのが情熱を注いだ「ビール」でした。東京に長期出張中だった私は、小規模醸造所の開業を目指す人のための醸造セミナーを受けたんです。「相澤塾」といって、約1年間、同じ志を持つ仲間と学び、受講後にはブルワリーを巡って議論する、青春時代のような日々でした。
後押しになったのが、銀座8丁目にある老舗のバーが構える「銀座醸造所」。
その店はとっても居心地が良くてね。足繁く通ううちにオーナーと仲良くなって、体験醸造の機会をいただきました。そして私が造ったビールをお店で出してもらったところ、後日オーナーから「お客さんがおいしかったって言ってたよ」って教えてもらったんです。自分の造ったものが、誰かの「おいしい」につながった。うれしかったですねぇ。これが後押しになって、40年のエンジニア生活にピリオドを打つ決断をしたんです。

醸造所の立ち上げは場所選びから機材選びまで大変でしたが、そのおかげで今は電子音の代わりに「発酵の音」を聞きながら仕事をしています。醸造室で耳を澄ませると、中で活動している酵母たちの音が聞こえてくるんですよ。200リットルの大きなタンクなら低い音で「ボコボコ」と。20リットルのテスト用タンクなら高い音で「ポコポコ」って。まるで彼らが音楽を奏でているようで、それを聞く時間が醸造家として一番幸せな瞬間。自分のお城の中で、自分にしか聞こえない生命の音。
どんなプログラムよりも私の心を震わせてくれるんです。
花園クラフトが目指しているのは基本に忠実なビール造りです。
規範としているのが、ドイツの「ビール純粋令」。 水、ホップ、酵母、麦芽。たった4つの材料だけで造る、ごまかしのきかないスタイルです。一見シンプルですが、これだけでフルーティーな香りから土の香り、黄金色から黒色まで自由自在に表現できるのがビールのおもしろさ。まずはしっかりとした基本を作り上げたい。その想いから、ドイツスタイルを軸にしています。看板商品の「オリジンラガー」は、かつて銀座で造ったオリジンエールをベースにしつつも、「ラガーマン」にちなんでラガー酵母を使用した自信作なんです。
この店には、ビールと並ぶもう一つの「主役」があります。

息子が担当している「クラフトコーラ」です。
彼が1年かけて完成させたこのコーラは、水を一切使わずにレモン果実のスライス、砂糖、スパイスを1週間漬け込んで、果実から出る果汁だけでコーラシロップを作っています。火を使わずにじっくり漬け込んだコーラはとてもまろやか。シーズン中の選手や車で来た方、お子様に大人気です。手間暇かけたこの味は、ビールに負けない自慢の看板商品なんですよ。
ラグビー観戦の「ついで」ではなく、ここを目的地に
ラベルには2匹のウサギが描かれています。
私と妻が二人とも「卯(うさぎ)年」なので、「二人で力を合わせてやっていこう」という意味を込めました。この場所を見つけてきてくれたのも妻です。「ビールは儲かるぞ」とプレゼンした甲斐あって(笑)、一番の理解者として支えてくれています。

オープンから1年。ありがたいことに、日本全国から、時には海外からもお客様が来てくださるようになりました。あるときドイツ人のお客様が「俺の国のビールよりうまいぞ!」ってサムズアップしてくれて!
あのときの喜びは言葉になりませんね。
オープン直後はラグビー観戦のついでに寄る方が多かったのですが、これからは「花園クラフトのビールを飲みに来た」って言っていただけるお店にしていきたい。ビールのついでに観戦に行く、くらいの逆転現象が起きれば本望です(笑)。
そのために、基本のドイツスタイルは守りつつも、地元の田んぼの酒米を使った酒粕や梅を使ったヴァイツェン、生駒山の養蜂場で採れたはちみつを使ったハニーエール、近隣農家が育てたホップを使ったインデアンペールラガーなど、さまざまなスタイルや副材料にも挑戦していきます。

花園には意外とお土産を買える場所が少ないんですよ。
だからこそ、うちのビールを花園の思い出として持ち帰っていただけるようにしたいと考えています。試合の興奮を語り合う場所として、公園帰りの憩いの場として。縁側で夕涼みをするような気軽さで、ビールとコーラを楽しみに来てください。酵母が奏でるリズムをBGMに、スクラムロードの片隅でお待ちしております!
取材・文/山口紗佳
【公式HP】https://www.hanazonocraft.com/
【Instagram】https://www.instagram.com/hanazonocraft/
【facebook】https://www.facebook.com/hanazono.craft/
花園にはラグビー観戦や公園遊びなど、さまざまな目的で人が集まります。が、意外とお土産といえるものがありませんでした。スポーツの熱気に浸りながら、あるいはご家族団欒のひとときに。お土産話と一緒に花クラのビールが食卓に笑顔を運ぶことができれば!
HANAZONOCRAFT花園クラフト
大阪府東大阪市吉田
ラグビーの聖地として知られる大阪府東大阪市の花園ラグビー場。数々の熱戦が繰り広げられてきたスタジアムに続くメインストリート「スクラムロード」の一角に、街のランドマークとなるブルワリーが誕生しました。「ものづくりのまち」としても有名なこの地で、2025年1月にオープンしたのが「HANAZONOCRAFT花園クラフト」。スポーツと人々の活気が交差するこの場所で、実直なビール造りに励む高橋伸介さんにお話を聞きました。
聖地「花園」の熱気と、勝利を祝う「桜」の香り

「ラグビーの聖地」花園。ここには独特の熱気があります。
花園クラフトがあるのは、近鉄奈良線、東花園駅から花園ラグビー場へと真っ直ぐに伸びる「スクラムロード」。試合が開催される日は全国から来た大勢のファンが行き交い、街全体がスタジアムの歓声に包まれるような高揚感に満ち溢れます。
そんな場所だからこそ、生まれた限定ビールがあります。
ラグビー日本代表のジャージに輝く「桜のエンブレム」。あの誇り高き桜にちなんで、生駒山の桜のチップと葉をビールに漬け込み、香り付けをしたビールです。勝利の祝杯や、試合後の余韻に浸るのにふさわしい一杯に仕上げました。
お店には、ファンの方々はもちろん、ラグビーチームのコーチやフロントスタッフといった関係者や、ご家族の方も足を運んでくださいます。店内のテレビで試合を流していると、カウンターでグラスを傾けているコーチが解説を始めてくれることも。プロ目線の解説を聞きながらビールを飲む。スタジアムの熱狂とはひと味違った、ここでしか味わえない贅沢な時間が流れているんです。

現役選手は身体が資本ですから、シーズン中にビールを飲みに来ることは稀ですが、選手やハンドルキーパー、お子様に人気なのがもう一つの花園クラフト名物「クラフトコーラ」です。その話はまた後ほど(笑)。
「ビールというのは、人と人とをつなぐツールなんだよ」
生まれ故郷である花園で醸造所をはじめようと思った根っこには、ある記憶があります。
「ビールというのは、人と人とをつなぐツールなんだよ」

商売をしていた祖父がよく口にしていた言葉です。
子供心に刷り込まれたこの言葉が60代になった今、指針になっています。知らない人同士がたまたま隣り合わせになり、ビールを介して会話が生まれ、縁が広がる。全国あらゆる場所から来た初対面のファン同士が乾杯する姿を見ると、祖父のこの言葉を思い出すんですよね。
醸造家になる前までは、長年システムエンジニアとして働いてきました。
パソコン創成期、記憶媒体がカセットテープだった時代から40年間です。「ピーヒョロロ〜」という読み込み音を聞きながらコンピュータを起動させる、そんなアナログ時代からずっとデジタルの世界に身を置いてきました。
ビールに興味を持ったきっかけは、専門学校時代の卒業旅行ですね。
1980年代、1ヶ月かけてヨーロッパを巡ったんです。フランスから入って、イタリア、スペイン、もう一回フランスに行って、イギリスに渡ってという感じで1ヶ月ぐらい。ドイツが東西に分断されていた時代だったのでドイツには行けませんでしたが、ロンドンのパブで初めて飲んだエールビールの衝撃は今でも忘れられません。当時の日本にはラガーしかありませんでしたから、味わったことのない豊かな香りと味わい深さに「これがビールなのか?」と雷に打たれたような感覚になったんです。
それから出張のたびに各地の地ビールを飲み歩くのがライフワークになりました(笑)。北は北海道から南は九州・沖縄まで、おいしい地ビールがあるところを見つけては飲みに行って。中でも特に印象に残っているのは、関門海峡の近くにある「門司港ビール」のヴァイツェンや、青森の「Be Easy Brewing」、函館の「ozigi brewing 函館麦酒醸造所」ですね。
カセットテープの電子音から、酵母が奏でる生命の音へ
そんな私が醸造家を目指そうと決意したのはコロナ禍の頃。
定年が近づいてきて「第2の人生」を考えたとき、頭に浮かんだのが情熱を注いだ「ビール」でした。東京に長期出張中だった私は、小規模醸造所の開業を目指す人のための醸造セミナーを受けたんです。「相澤塾」といって、約1年間、同じ志を持つ仲間と学び、受講後にはブルワリーを巡って議論する、青春時代のような日々でした。
後押しになったのが、銀座8丁目にある老舗のバーが構える「銀座醸造所」。
その店はとっても居心地が良くてね。足繁く通ううちにオーナーと仲良くなって、体験醸造の機会をいただきました。そして私が造ったビールをお店で出してもらったところ、後日オーナーから「お客さんがおいしかったって言ってたよ」って教えてもらったんです。自分の造ったものが、誰かの「おいしい」につながった。うれしかったですねぇ。これが後押しになって、40年のエンジニア生活にピリオドを打つ決断をしたんです。

醸造所の立ち上げは場所選びから機材選びまで大変でしたが、そのおかげで今は電子音の代わりに「発酵の音」を聞きながら仕事をしています。醸造室で耳を澄ませると、中で活動している酵母たちの音が聞こえてくるんですよ。200リットルの大きなタンクなら低い音で「ボコボコ」と。20リットルのテスト用タンクなら高い音で「ポコポコ」って。まるで彼らが音楽を奏でているようで、それを聞く時間が醸造家として一番幸せな瞬間。自分のお城の中で、自分にしか聞こえない生命の音。
どんなプログラムよりも私の心を震わせてくれるんです。
花園クラフトが目指しているのは基本に忠実なビール造りです。
規範としているのが、ドイツの「ビール純粋令」。 水、ホップ、酵母、麦芽。たった4つの材料だけで造る、ごまかしのきかないスタイルです。一見シンプルですが、これだけでフルーティーな香りから土の香り、黄金色から黒色まで自由自在に表現できるのがビールのおもしろさ。まずはしっかりとした基本を作り上げたい。その想いから、ドイツスタイルを軸にしています。看板商品の「オリジンラガー」は、かつて銀座で造ったオリジンエールをベースにしつつも、「ラガーマン」にちなんでラガー酵母を使用した自信作なんです。
この店には、ビールと並ぶもう一つの「主役」があります。

息子が担当している「クラフトコーラ」です。
彼が1年かけて完成させたこのコーラは、水を一切使わずにレモン果実のスライス、砂糖、スパイスを1週間漬け込んで、果実から出る果汁だけでコーラシロップを作っています。火を使わずにじっくり漬け込んだコーラはとてもまろやか。シーズン中の選手や車で来た方、お子様に大人気です。手間暇かけたこの味は、ビールに負けない自慢の看板商品なんですよ。
ラグビー観戦の「ついで」ではなく、ここを目的地に
ラベルには2匹のウサギが描かれています。
私と妻が二人とも「卯(うさぎ)年」なので、「二人で力を合わせてやっていこう」という意味を込めました。この場所を見つけてきてくれたのも妻です。「ビールは儲かるぞ」とプレゼンした甲斐あって(笑)、一番の理解者として支えてくれています。

オープンから1年。ありがたいことに、日本全国から、時には海外からもお客様が来てくださるようになりました。あるときドイツ人のお客様が「俺の国のビールよりうまいぞ!」ってサムズアップしてくれて!
あのときの喜びは言葉になりませんね。
オープン直後はラグビー観戦のついでに寄る方が多かったのですが、これからは「花園クラフトのビールを飲みに来た」って言っていただけるお店にしていきたい。ビールのついでに観戦に行く、くらいの逆転現象が起きれば本望です(笑)。
そのために、基本のドイツスタイルは守りつつも、地元の田んぼの酒米を使った酒粕や梅を使ったヴァイツェン、生駒山の養蜂場で採れたはちみつを使ったハニーエール、近隣農家が育てたホップを使ったインデアンペールラガーなど、さまざまなスタイルや副材料にも挑戦していきます。

花園には意外とお土産を買える場所が少ないんですよ。
だからこそ、うちのビールを花園の思い出として持ち帰っていただけるようにしたいと考えています。試合の興奮を語り合う場所として、公園帰りの憩いの場として。縁側で夕涼みをするような気軽さで、ビールとコーラを楽しみに来てください。酵母が奏でるリズムをBGMに、スクラムロードの片隅でお待ちしております!
取材・文/山口紗佳
【公式HP】https://www.hanazonocraft.com/
【Instagram】https://www.instagram.com/hanazonocraft/
【facebook】https://www.facebook.com/hanazono.craft/
花園にはラグビー観戦や公園遊びなど、さまざまな目的で人が集まります。が、意外とお土産といえるものがありませんでした。スポーツの熱気に浸りながら、あるいはご家族団欒のひとときに。お土産話と一緒に花クラのビールが食卓に笑顔を運ぶことができれば!
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