ながら木こりんブルワリー(千葉県)のはなし
麦芽が香るアルトに炙った杉で香りづけ! 「木こり」の遊び心が光る森のブルワリー
ながら木こりんブルワリー
千葉県長生郡長柄町
千葉県のほぼ中央、房総半島の「へそ」とも呼ばれる長柄町(ながらまち)。なだらかな丘陵地帯に囲まれ、豊かな里山やダム湖が織りなす美しい景観が広がる静かな町です。2024年8月にオープンした「ながら木こりんブルワリー」は、かつて資材置き場だった建屋をセルフリノベーションしたブルワリー。映像制作やカフェ運営から木こりへ、そして醸造家に転身した異色の経歴を持つ、代表の井上源太郎さんにお話を聞きました。
グラスの中で目覚める杉の香り。長柄町の「森」を味わう一杯

突然ですが、ビールに「木」を入れて飲んだことってありますか?
木の中にビールを入れる“樽熟成”の話ではないですよ!杉の木のチップを入れたグラスにビールを注いで飲むんです。
仲間たちと飲んでいるときに、ふと思いついたんですよね。
「スルメやフグのヒレをちょっと炙って酒に入れるみたいに、木を炙ってビールに入れたらおもしろいんじゃないか」って。ちょっとした遊び心から始まったアイデアでした。でも実際にやってみると、これが結構おもしろい!飲み進めるについて、どんどん杉の香ばしい香りが立ち上ってくる。ビールの温度が上がると味の輪郭が変わってくるんです。木のコイン「kicoin」は飲みながらビールの変化を楽しめるアイテムなんです。

ブルワリーがある千葉県長柄町には、特筆すべき名産品や観光資源がありません。それなら、この土地に豊富にある「木」をテーマにしよう、そう考えて生まれたのがこの「kicoin」。ボトルのネックに、杉の枝をスライスしたコイン状のチップを紐で結びつけています。飲む直前にご自身で炙って浮かべてもいいですし、このチップをブルワリーに持ってきていただければ、ちょっとしたサービスをご用意しています。

今の肩書きは「ブルワー」ですが、同時に「木こり」でもあります。
なぜ僕が映像制作の世界から林業へ、そしてビールの世界に足を踏み入れたのか。この場所ができるまでの物語をちょっとお話しさせてください。
チェーンソーワークは頭も体も使うスポーツ
もともと僕は、映像制作やイベント業、原宿のカフェ運営など、いわゆる都市部でデスクワークをしていました。転機が訪れたのは2014年。千葉大学の林業にまつわるプロジェクトの広報映像を作るお仕事を受けたことがきっかけで、長柄町の隣にある長南町と関わることになったんです。
その際、
「広報をやるなら現場を知っておけ」
そう言われてチェーンソーの講習を受けたのが、すべての始まりでした。
まるで新しいスポーツに出会ったような感覚でしたね。チェーンソーって、一見すると無骨で大胆な機械に見えますよね。でも、実際に木を倒すとなると、そこには極めて繊細な知識と経験、技術が求められる作業なんです。

木の重心がどこにあるのか、風はどの方向にどれくらい吹いているか。木の形や周囲の状況も考慮して、まず木を倒す方向を見極めます。物理の授業で習ったような要素を計算し、人間の力では到底動かせない大木を、チェーンソーひとつでコントロールする。そして狙った方向に正確に倒せたときあの快感といったら!大胆さと繊細さが同居するチェーンソーワークにすっかり魅了されてしまいました(笑)。
チェーンソー選びひとつとっても、個人の好みが色濃く出ます。
長いバーをつけて太い木を切れる大排気量のものを好む人もいますが、僕は30cc〜40cc程度の軽くて取り回しの良いものが好きなんです。自分の手足のように扱える道具で、一本の木と向き合う。体と頭を同時にフル回転させる林業は、僕にとってこれまでにないワクワクを与えてくれるものでした。
「セルフビルド」で積み上げた、人が集まる拠点
木を上手に切れるようになると、次は「この木を使って何か作りたい」という欲求が湧いてくるんです。かつて父がログハウス関係の仕事をしていた影響もあって、いつか自分の手でログハウスを建てたいという夢がありました。林業のプロジェクトでは、間伐された杉を燃料として燃やしていましたが、「こんなに良い木を燃やすのはもったいない」と思い始めた僕は、切った木を木材として搬出してログハウスを建てることに。
これが完成までに4、5年はかかりましたね(笑)

その作業中、長柄町の方に「バスの待合所を作ってほしい」と頼まれ、周囲の杉を使って役場前に青いログハウスを建てたこともあります。これがご縁で、移住定住業務も任されるようになって、少しずつ地域とのつながりが生まれていきました。やがて、資材置き場として使っていた古い建屋を改装することになり、それなら「ビール工場にしよう」という計画が浮かびました。

このブルワリーの建物も、ほとんどがセルフビルド。
もともと電気しか通っていなかった物置で、屋根と骨組み状態まで解体してインフラを整備するところから始めたんです。一緒に活動をしている安島はブルワリーの醸造責任者。原宿のカフェ時代はシェフをしていて、今では僕以上に建築スキルを持っています。彼女のような仲間がいなければ完成しなかったでしょうね!
流行は追わない。ドイツスタイルへの回帰
さて、肝心のビールの話に戻りましょうか(笑)
ながら木こりんブルワリーのビールは、麦芽の旨みをしっかりと感じられるドイツスタイルです。
僕がクラフトビール(当時は地ビール)にハマったのは、2000年頃。
第一次地ビールブームの終わりかけでした。そのときに飲んだ「アルト」というスタイルのビールに衝撃を受けたんです。大手メーカーのラガーとは全く違う、香り高くて、麦芽のコクを感じられる深い味わい。「こんなビールがあるのか!」と感動して、いつか自分でもこんな味を作ってみたいとずっと思い続けてきました。
トレンドのホップ優位のビールではなく、じっくりと味わえる茶褐色のアルトや、伝統的なヴァイツェンなど、ながら木こりんブルワリーではドイツスタイルが中心です。

醸造設備の導入や醸造研修にあたっては、別のプロジェクトで出会った「銀河高原ビール」の元醸造長、柴田信一さんにアドバイザーとしてご指導いただきました。柴田さんはドイツスタイルの伝統的なビール醸造に強いこだわりを持つ方で、ラインナップの基本的なレシピも設計してくれました。
そのレシピをベースに、自分たちの舌で確かめながら毎回微調整を重ねています。
林業が物理の世界なら、ビール造りは発酵という目に見えない微生物たちが主役。つまり化学と生物学の世界です。温度管理ひとつで味がガラッと変わる難しさに直面しながらも、理想の味を追い求めています。
遊び人から賢者へ。描くのは自給自足の未来図

ブルワリーとしての歩みは、まだ始まったばかり。
僕が大好きなRPGゲーム『ドラゴンクエスト』で例えるなら、映像や林業といったこれまでのキャリアを一度リセットし、また「レベル1」の職業に転職したぐらい(笑)
僕は根っからの「遊び人」気質なんでしょうね!
でも、遊び人は経験を積めば、いつかはすべての魔法を使いこなす「賢者」になれる。映像が作れて、木が切れて、家が建てられて、そしてビールも造れる。いろんなスキルを習得中です。さらに今、安島は狩猟免許を取得し、自分たちで獲ったジビエをレストランで提供する準備も進めています。
ゆくゆくは長柄町に解体場も作って、地元の獣害対策にも貢献しながら、おいしいジビエ料理とドイツスタイルのビール、そして杉の香りのペアリングを楽しめる場所にしたいですね。自分たちの手で暮らしを作り、食べるものを調達し、地域の人たちと笑い合う。そんな自給自足的な「賢者」の暮らしを目指して、今日も森の中で木を切ったり、ビールを仕込んだり。

まずは、この「kicoin」とビールを手に取ってみてください。
そしてkicoinを炙って、長柄町の森の気配を感じるビールをお楽しみください。
いつかこの「縁側」で、皆さんと乾杯できますように!
取材・文/山口紗佳
【公式HP】https://kicorin-b.com/
【Instagram】https://www.instagram.com/kicorin.brewery/
お届けするビールは食事との相性抜群!元シェフが考案したレシピブックとKICOINも付けていますので、ぜひ料理とのペアリングを楽しんでください。森の香りと共に、長柄町の自然や林業のことにも少しだけ思いを馳せてもらえたらうれしいです。
ながら木こりんブルワリー
千葉県長生郡長柄町
千葉県のほぼ中央、房総半島の「へそ」とも呼ばれる長柄町(ながらまち)。なだらかな丘陵地帯に囲まれ、豊かな里山やダム湖が織りなす美しい景観が広がる静かな町です。2024年8月にオープンした「ながら木こりんブルワリー」は、かつて資材置き場だった建屋をセルフリノベーションしたブルワリー。映像制作やカフェ運営から木こりへ、そして醸造家に転身した異色の経歴を持つ、代表の井上源太郎さんにお話を聞きました。
グラスの中で目覚める杉の香り。長柄町の「森」を味わう一杯

突然ですが、ビールに「木」を入れて飲んだことってありますか?
木の中にビールを入れる“樽熟成”の話ではないですよ!杉の木のチップを入れたグラスにビールを注いで飲むんです。
仲間たちと飲んでいるときに、ふと思いついたんですよね。
「スルメやフグのヒレをちょっと炙って酒に入れるみたいに、木を炙ってビールに入れたらおもしろいんじゃないか」って。ちょっとした遊び心から始まったアイデアでした。でも実際にやってみると、これが結構おもしろい!飲み進めるについて、どんどん杉の香ばしい香りが立ち上ってくる。ビールの温度が上がると味の輪郭が変わってくるんです。木のコイン「kicoin」は飲みながらビールの変化を楽しめるアイテムなんです。

ブルワリーがある千葉県長柄町には、特筆すべき名産品や観光資源がありません。それなら、この土地に豊富にある「木」をテーマにしよう、そう考えて生まれたのがこの「kicoin」。ボトルのネックに、杉の枝をスライスしたコイン状のチップを紐で結びつけています。飲む直前にご自身で炙って浮かべてもいいですし、このチップをブルワリーに持ってきていただければ、ちょっとしたサービスをご用意しています。

今の肩書きは「ブルワー」ですが、同時に「木こり」でもあります。
なぜ僕が映像制作の世界から林業へ、そしてビールの世界に足を踏み入れたのか。この場所ができるまでの物語をちょっとお話しさせてください。
チェーンソーワークは頭も体も使うスポーツ
もともと僕は、映像制作やイベント業、原宿のカフェ運営など、いわゆる都市部でデスクワークをしていました。転機が訪れたのは2014年。千葉大学の林業にまつわるプロジェクトの広報映像を作るお仕事を受けたことがきっかけで、長柄町の隣にある長南町と関わることになったんです。
その際、
「広報をやるなら現場を知っておけ」
そう言われてチェーンソーの講習を受けたのが、すべての始まりでした。
まるで新しいスポーツに出会ったような感覚でしたね。チェーンソーって、一見すると無骨で大胆な機械に見えますよね。でも、実際に木を倒すとなると、そこには極めて繊細な知識と経験、技術が求められる作業なんです。

木の重心がどこにあるのか、風はどの方向にどれくらい吹いているか。木の形や周囲の状況も考慮して、まず木を倒す方向を見極めます。物理の授業で習ったような要素を計算し、人間の力では到底動かせない大木を、チェーンソーひとつでコントロールする。そして狙った方向に正確に倒せたときあの快感といったら!大胆さと繊細さが同居するチェーンソーワークにすっかり魅了されてしまいました(笑)。
チェーンソー選びひとつとっても、個人の好みが色濃く出ます。
長いバーをつけて太い木を切れる大排気量のものを好む人もいますが、僕は30cc〜40cc程度の軽くて取り回しの良いものが好きなんです。自分の手足のように扱える道具で、一本の木と向き合う。体と頭を同時にフル回転させる林業は、僕にとってこれまでにないワクワクを与えてくれるものでした。
「セルフビルド」で積み上げた、人が集まる拠点
木を上手に切れるようになると、次は「この木を使って何か作りたい」という欲求が湧いてくるんです。かつて父がログハウス関係の仕事をしていた影響もあって、いつか自分の手でログハウスを建てたいという夢がありました。林業のプロジェクトでは、間伐された杉を燃料として燃やしていましたが、「こんなに良い木を燃やすのはもったいない」と思い始めた僕は、切った木を木材として搬出してログハウスを建てることに。
これが完成までに4、5年はかかりましたね(笑)

その作業中、長柄町の方に「バスの待合所を作ってほしい」と頼まれ、周囲の杉を使って役場前に青いログハウスを建てたこともあります。これがご縁で、移住定住業務も任されるようになって、少しずつ地域とのつながりが生まれていきました。やがて、資材置き場として使っていた古い建屋を改装することになり、それなら「ビール工場にしよう」という計画が浮かびました。

このブルワリーの建物も、ほとんどがセルフビルド。
もともと電気しか通っていなかった物置で、屋根と骨組み状態まで解体してインフラを整備するところから始めたんです。一緒に活動をしている安島はブルワリーの醸造責任者。原宿のカフェ時代はシェフをしていて、今では僕以上に建築スキルを持っています。彼女のような仲間がいなければ完成しなかったでしょうね!
流行は追わない。ドイツスタイルへの回帰
さて、肝心のビールの話に戻りましょうか(笑)
ながら木こりんブルワリーのビールは、麦芽の旨みをしっかりと感じられるドイツスタイルです。
僕がクラフトビール(当時は地ビール)にハマったのは、2000年頃。
第一次地ビールブームの終わりかけでした。そのときに飲んだ「アルト」というスタイルのビールに衝撃を受けたんです。大手メーカーのラガーとは全く違う、香り高くて、麦芽のコクを感じられる深い味わい。「こんなビールがあるのか!」と感動して、いつか自分でもこんな味を作ってみたいとずっと思い続けてきました。
トレンドのホップ優位のビールではなく、じっくりと味わえる茶褐色のアルトや、伝統的なヴァイツェンなど、ながら木こりんブルワリーではドイツスタイルが中心です。

醸造設備の導入や醸造研修にあたっては、別のプロジェクトで出会った「銀河高原ビール」の元醸造長、柴田信一さんにアドバイザーとしてご指導いただきました。柴田さんはドイツスタイルの伝統的なビール醸造に強いこだわりを持つ方で、ラインナップの基本的なレシピも設計してくれました。
そのレシピをベースに、自分たちの舌で確かめながら毎回微調整を重ねています。
林業が物理の世界なら、ビール造りは発酵という目に見えない微生物たちが主役。つまり化学と生物学の世界です。温度管理ひとつで味がガラッと変わる難しさに直面しながらも、理想の味を追い求めています。
遊び人から賢者へ。描くのは自給自足の未来図

ブルワリーとしての歩みは、まだ始まったばかり。
僕が大好きなRPGゲーム『ドラゴンクエスト』で例えるなら、映像や林業といったこれまでのキャリアを一度リセットし、また「レベル1」の職業に転職したぐらい(笑)
僕は根っからの「遊び人」気質なんでしょうね!
でも、遊び人は経験を積めば、いつかはすべての魔法を使いこなす「賢者」になれる。映像が作れて、木が切れて、家が建てられて、そしてビールも造れる。いろんなスキルを習得中です。さらに今、安島は狩猟免許を取得し、自分たちで獲ったジビエをレストランで提供する準備も進めています。
ゆくゆくは長柄町に解体場も作って、地元の獣害対策にも貢献しながら、おいしいジビエ料理とドイツスタイルのビール、そして杉の香りのペアリングを楽しめる場所にしたいですね。自分たちの手で暮らしを作り、食べるものを調達し、地域の人たちと笑い合う。そんな自給自足的な「賢者」の暮らしを目指して、今日も森の中で木を切ったり、ビールを仕込んだり。

まずは、この「kicoin」とビールを手に取ってみてください。
そしてkicoinを炙って、長柄町の森の気配を感じるビールをお楽しみください。
いつかこの「縁側」で、皆さんと乾杯できますように!
取材・文/山口紗佳
【公式HP】https://kicorin-b.com/
【Instagram】https://www.instagram.com/kicorin.brewery/
お届けするビールは食事との相性抜群!元シェフが考案したレシピブックとKICOINも付けていますので、ぜひ料理とのペアリングを楽しんでください。森の香りと共に、長柄町の自然や林業のことにも少しだけ思いを馳せてもらえたらうれしいです。
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