KURASHIKI BREWING CO.(岡山県)のはなし
飲食店の「経費」ではなく「希望」になりたい。おしぼり屋が地元愛と絆を込めた「OKAYAMA JIMOTO BEER 086」
KURASHIKI BREWING CO.
岡山県都窪郡
岡山県南部にあり、い草の栽培や畳表の生産で栄えた歴史を持つ早島町。岡山市と倉敷市の間に位置するこの町は、のどかな田園風景と利便性を併せ持っています。この地で半世紀にわたっておしぼりレンタル業を営んできた一倉株式会社が2022年オープンしたのが「KURASHIKI BREWING CO.」です。コロナ禍で苦境に立たされた飲食店を支えたいという思いで生まれた「OKAYAMA JIMOTO BEER 086」シリーズ、醸造責任者の赤城圭佑さんにお話を聞きました。
ビールなら、飲食店のパートナーになれる

そもそも、なぜおしぼり屋がビールを造り始めたのか。
不思議に思われる方も多いでしょうね(笑)。KURASHIKI BREWINGを運営している「一倉」は、50年以上にわたっておしぼりレンタル業を営んできました。割り箸や紙ナプキン、キッチンやホールで使う備品などの業務用資材も扱っています。本来なら僕は跡取りとして事業を引き継ぐ予定だったんです。しかしあの頃、新型コロナウイルス感染症の流行がはじまって、すべてを変えてしまった。
おしぼりという商売は、飲食店の景気に直結しています。
コロナ禍はおしぼりの「発注」という残酷な数字で、ダメージの大きさを目の当たりにしていました。おしぼりが出ないということは、お客さんがいないということ。「落ち着いたら客足は戻るんだろうか?」という漠然とした不安もありました。外食習慣自体がなくなってしまうかもしれない。そうなればお店も成り立たなくなりますし、僕らのような業者も共倒れになってしまいます。このまま街全体の活気がなくなれば未来がない。そんな危機感が会社を突き動かしました。
きっかけは私の父、現社長です。
あるときお中元でクラフトビールをいただいたんです。僕もそうだったんですが、これまでクラフトビールというと「変わった味のビール」という偏見のようなものを抱いていたんです。でもそのクラフトビールを飲んで認識が一変!「うまい!」と。
そこからすっかりハマって、国内外たくさんのビールを飲むようになり、やがて「ビールが突破口になるかもしれない」という考えが社長に芽生えたようです。2020年頃でした。

ビジネス視点でもビールには希望がありました。
お店にとって、おしぼりや箸は「経費」です。どれだけ高品質なおしぼりを提供してもお店の売上が増えるわけじゃない。お店側からすれば削減したいコストです。でも、ビールは違う。売れた分だけお店の売上になります。僕たちがおいしいビールを卸し、それをお店がお客様に提供して喜んでもらえれば、お店も潤うし、僕たちもうれしい。ビールなら一緒に売上を作っていくパートナーになれる。
同じ方向を目指せる仕組みが、ビールで実現したかったことなんです。
品質への意識が根底から変わった一言、アドバイザーとの出会い
「飲食店を支えたい」という志でスタートしたビール事業。
まずは広島県の「備後福山ブルーイングカレッジ」でビール造りの基礎を学びました。そこからさらに色々な技術を取り入れて表現の幅を広げようと試行錯誤していたのですが、思い返せば当初は品質管理について甘く見ていた部分があったのだと思います。
というのも、以前ある家庭用ビールサーバーのサービスに参画したいと思って自社のサンプルを送ったところ、返ってきたのは厳しい評価でした。「開業して間もないから」という規約上の理由だけでなく、「仮に期間の条件を満たしていても、この味では契約できない」と言われてしまったんです。

ショックでしたよ。
でも、それが品質に対する意識を根底から変えるきっかけになった。
そこでアドバイザーに恵まれたおかげでビールがガラッと変わったんです。品質改善のコンサルタントとして紹介していただいたのがブルワーの植竹大海さん。今は北海道にある「Brasserie Knot」の代表を務めてらっしゃいますが、数々の有名ブルワリーで醸造長を務めあげた大ベテランです。
植竹さんのビールを飲んだときの衝撃。
「なんてきれいなんだ……」と感動しました。雑味がなく、透き通るような美しさ。
僕たちはそれまで、濁りや雑味のあるビールを「クラフトビールとはこういうもの」だと思い込んでいた。技術不足だったことに気づかされたんです。
植竹さんのおかげで目指すべきビールができました。
植竹さんに工場へ来ていただき、最初に始まったのはビール造りではなく徹底的な「洗浄」でした。3日間ひたすらタンクや設備を洗い続けたんです。使う薬品もすべて見直し、菌数を数値で管理する検査キットも導入しました。「この数値以下になるまで掃除する」。そう決めて取り組むことで、衛生管理への意識が劇的に変わりました。同時にレシピも見直して、麦芽の挽き方から糖化の温度や時間など、すべてにおいて理論に基づいた指導を受けました。この指導を受けていなければと思うと、考えたくないですね……(苦笑)。
岡山・倉敷の誇りと地元愛を「086」に込めて
ブランド名は「OKAYAMA JIMOTO BEER 086」
「086」という数字は地元、岡山県の「市外局番」なんです。さらにボトルについている数字は県内各地域の市外局番。ビアスタイルのイメージに合わせて割り当てています。

例えば「#2 OKAYAMA PALE ALE」のペールエール。
僕たちの中でペールエールは、少し都会的でおしゃれイメージがあります。そこで県内で一番の都会である岡山市の局番「2」をつけました。一方で、白く濁ったヘイジーIPA「#4 KURASHIKI HAZY IPA」は倉敷の観光名所、美観地区にある「白壁」をイメージして、倉敷市の局番「4」を割り当てているんです。地元の方が「ああ、あそこの局番か!」と気づいてくれたらうれしいですね。まずは地元の人に愛されて「岡山のビールといえばこれ!」と言ってもらえるような存在になりたいと思っています。
最初は味が安定せず断られることもありましたが、ありがたいことに今では県内300店ほどの飲食店で扱っていただけるようになりました。醸造所は岡山市と倉敷市のちょうど中間、JR早島駅近くの複合施設にあります。以前はタップルームも併設していたのですが、工場拡張のために泣く泣くクローズしました。お客様との接点が減ってしまったのは寂しいですが、それだけ多くの方に飲んでいただけるようになった証だと思いますので、しばらくはビール製造に専念する予定です。
あくまで主役は料理、ビールは「名脇役」でいい
あるイベントに出店した際、外国人の方が僕たちの瓶ビールを片手に飲み歩き、仲間にすすめてくれている光景を目にしたんです。その光景を見たときに「ああ、造ってよかったなぁ」と、心から思いましたね。ビールは生きていくために不可欠なものではありません。あくまで嗜好品であり贅沢品。でも、その「なくてもいいもの」が、誰かの笑顔を作り、楽しい時間を演出している。
僕たちが目指すビールの立ち位置、それは「名脇役」です。
飲食店の主役は間違いなくそのお店が作る料理です。ビールが主張しすぎて料理の味を邪魔してしまってはいけません。おしぼりが食事を楽しむ前の安心感や清潔さを提供する黒子であるように、僕たちのビールもまた、食事を盛り上げ、料理を引き立てる存在でありたいと考えています。お客様をおもてなしする「ホスピタリティ」という意味では、ビールもおしぼりも同じなんですよね。

だからこそ、僕たちは「飲みやすさ(ドリンカビリティ)」を何よりも大切にしています。初めてクラフトビールを飲んだ人が戸惑ってしまうような個性の強すぎる味ではなく、すんなりと受け入れられる味。ペールエールもIPAも、基本のスタイルを大切にしながら、レベルの高い「普通のおいしさ」を追求したい。
普段は大手メーカーのビールしか飲まないという方が、ふと僕たちのビールを飲んで、「お、ビールってこんなにうまいんだ」「もっと違うビールも飲んでみたい」と思ってもらえたら、もう最高ですね!
岡山に来たときはぜひどこかのお店で、料理と一緒にKURASHIKI BREWINGのビールを楽しんでください。
取材・文/山口紗佳
【公式HP】https://kurashiki-brewing.com/
【Instagram】https://www.instagram.com/kurashiki_brewing/
おいしい料理にそっと寄り添い、食卓を少しだけ豊かにする「名脇役」。そのために、すんなりと飲める味に仕上げています。クラフトビールの入り口として、ぜひ気負わずに味わってみてください!
KURASHIKI BREWING CO.
岡山県都窪郡
岡山県南部にあり、い草の栽培や畳表の生産で栄えた歴史を持つ早島町。岡山市と倉敷市の間に位置するこの町は、のどかな田園風景と利便性を併せ持っています。この地で半世紀にわたっておしぼりレンタル業を営んできた一倉株式会社が2022年オープンしたのが「KURASHIKI BREWING CO.」です。コロナ禍で苦境に立たされた飲食店を支えたいという思いで生まれた「OKAYAMA JIMOTO BEER 086」シリーズ、醸造責任者の赤城圭佑さんにお話を聞きました。
ビールなら、飲食店のパートナーになれる

そもそも、なぜおしぼり屋がビールを造り始めたのか。
不思議に思われる方も多いでしょうね(笑)。KURASHIKI BREWINGを運営している「一倉」は、50年以上にわたっておしぼりレンタル業を営んできました。割り箸や紙ナプキン、キッチンやホールで使う備品などの業務用資材も扱っています。本来なら僕は跡取りとして事業を引き継ぐ予定だったんです。しかしあの頃、新型コロナウイルス感染症の流行がはじまって、すべてを変えてしまった。
おしぼりという商売は、飲食店の景気に直結しています。
コロナ禍はおしぼりの「発注」という残酷な数字で、ダメージの大きさを目の当たりにしていました。おしぼりが出ないということは、お客さんがいないということ。「落ち着いたら客足は戻るんだろうか?」という漠然とした不安もありました。外食習慣自体がなくなってしまうかもしれない。そうなればお店も成り立たなくなりますし、僕らのような業者も共倒れになってしまいます。このまま街全体の活気がなくなれば未来がない。そんな危機感が会社を突き動かしました。
きっかけは私の父、現社長です。
あるときお中元でクラフトビールをいただいたんです。僕もそうだったんですが、これまでクラフトビールというと「変わった味のビール」という偏見のようなものを抱いていたんです。でもそのクラフトビールを飲んで認識が一変!「うまい!」と。
そこからすっかりハマって、国内外たくさんのビールを飲むようになり、やがて「ビールが突破口になるかもしれない」という考えが社長に芽生えたようです。2020年頃でした。

ビジネス視点でもビールには希望がありました。
お店にとって、おしぼりや箸は「経費」です。どれだけ高品質なおしぼりを提供してもお店の売上が増えるわけじゃない。お店側からすれば削減したいコストです。でも、ビールは違う。売れた分だけお店の売上になります。僕たちがおいしいビールを卸し、それをお店がお客様に提供して喜んでもらえれば、お店も潤うし、僕たちもうれしい。ビールなら一緒に売上を作っていくパートナーになれる。
同じ方向を目指せる仕組みが、ビールで実現したかったことなんです。
品質への意識が根底から変わった一言、アドバイザーとの出会い
「飲食店を支えたい」という志でスタートしたビール事業。
まずは広島県の「備後福山ブルーイングカレッジ」でビール造りの基礎を学びました。そこからさらに色々な技術を取り入れて表現の幅を広げようと試行錯誤していたのですが、思い返せば当初は品質管理について甘く見ていた部分があったのだと思います。
というのも、以前ある家庭用ビールサーバーのサービスに参画したいと思って自社のサンプルを送ったところ、返ってきたのは厳しい評価でした。「開業して間もないから」という規約上の理由だけでなく、「仮に期間の条件を満たしていても、この味では契約できない」と言われてしまったんです。

ショックでしたよ。
でも、それが品質に対する意識を根底から変えるきっかけになった。
そこでアドバイザーに恵まれたおかげでビールがガラッと変わったんです。品質改善のコンサルタントとして紹介していただいたのがブルワーの植竹大海さん。今は北海道にある「Brasserie Knot」の代表を務めてらっしゃいますが、数々の有名ブルワリーで醸造長を務めあげた大ベテランです。
植竹さんのビールを飲んだときの衝撃。
「なんてきれいなんだ……」と感動しました。雑味がなく、透き通るような美しさ。
僕たちはそれまで、濁りや雑味のあるビールを「クラフトビールとはこういうもの」だと思い込んでいた。技術不足だったことに気づかされたんです。
植竹さんのおかげで目指すべきビールができました。
植竹さんに工場へ来ていただき、最初に始まったのはビール造りではなく徹底的な「洗浄」でした。3日間ひたすらタンクや設備を洗い続けたんです。使う薬品もすべて見直し、菌数を数値で管理する検査キットも導入しました。「この数値以下になるまで掃除する」。そう決めて取り組むことで、衛生管理への意識が劇的に変わりました。同時にレシピも見直して、麦芽の挽き方から糖化の温度や時間など、すべてにおいて理論に基づいた指導を受けました。この指導を受けていなければと思うと、考えたくないですね……(苦笑)。
岡山・倉敷の誇りと地元愛を「086」に込めて
ブランド名は「OKAYAMA JIMOTO BEER 086」
「086」という数字は地元、岡山県の「市外局番」なんです。さらにボトルについている数字は県内各地域の市外局番。ビアスタイルのイメージに合わせて割り当てています。

例えば「#2 OKAYAMA PALE ALE」のペールエール。
僕たちの中でペールエールは、少し都会的でおしゃれイメージがあります。そこで県内で一番の都会である岡山市の局番「2」をつけました。一方で、白く濁ったヘイジーIPA「#4 KURASHIKI HAZY IPA」は倉敷の観光名所、美観地区にある「白壁」をイメージして、倉敷市の局番「4」を割り当てているんです。地元の方が「ああ、あそこの局番か!」と気づいてくれたらうれしいですね。まずは地元の人に愛されて「岡山のビールといえばこれ!」と言ってもらえるような存在になりたいと思っています。
最初は味が安定せず断られることもありましたが、ありがたいことに今では県内300店ほどの飲食店で扱っていただけるようになりました。醸造所は岡山市と倉敷市のちょうど中間、JR早島駅近くの複合施設にあります。以前はタップルームも併設していたのですが、工場拡張のために泣く泣くクローズしました。お客様との接点が減ってしまったのは寂しいですが、それだけ多くの方に飲んでいただけるようになった証だと思いますので、しばらくはビール製造に専念する予定です。
あくまで主役は料理、ビールは「名脇役」でいい
あるイベントに出店した際、外国人の方が僕たちの瓶ビールを片手に飲み歩き、仲間にすすめてくれている光景を目にしたんです。その光景を見たときに「ああ、造ってよかったなぁ」と、心から思いましたね。ビールは生きていくために不可欠なものではありません。あくまで嗜好品であり贅沢品。でも、その「なくてもいいもの」が、誰かの笑顔を作り、楽しい時間を演出している。
僕たちが目指すビールの立ち位置、それは「名脇役」です。
飲食店の主役は間違いなくそのお店が作る料理です。ビールが主張しすぎて料理の味を邪魔してしまってはいけません。おしぼりが食事を楽しむ前の安心感や清潔さを提供する黒子であるように、僕たちのビールもまた、食事を盛り上げ、料理を引き立てる存在でありたいと考えています。お客様をおもてなしする「ホスピタリティ」という意味では、ビールもおしぼりも同じなんですよね。

だからこそ、僕たちは「飲みやすさ(ドリンカビリティ)」を何よりも大切にしています。初めてクラフトビールを飲んだ人が戸惑ってしまうような個性の強すぎる味ではなく、すんなりと受け入れられる味。ペールエールもIPAも、基本のスタイルを大切にしながら、レベルの高い「普通のおいしさ」を追求したい。
普段は大手メーカーのビールしか飲まないという方が、ふと僕たちのビールを飲んで、「お、ビールってこんなにうまいんだ」「もっと違うビールも飲んでみたい」と思ってもらえたら、もう最高ですね!
岡山に来たときはぜひどこかのお店で、料理と一緒にKURASHIKI BREWINGのビールを楽しんでください。
取材・文/山口紗佳
【公式HP】https://kurashiki-brewing.com/
【Instagram】https://www.instagram.com/kurashiki_brewing/
おいしい料理にそっと寄り添い、食卓を少しだけ豊かにする「名脇役」。そのために、すんなりと飲める味に仕上げています。クラフトビールの入り口として、ぜひ気負わずに味わってみてください!
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