ビールの縁側

ビールに溶け込んだフレーバーとストーリー。 ビール造りの前後に広がる世界もまるごと楽しんで

ビールと一緒に丹後地方の歴史と文化も知ってもらいたくて

京都府北部、日本海に面した丹後半島に位置する京丹後市は、関西屈指の美しい海と深い山々に囲まれた自然豊かな地域。古来より海産物や農産物に恵まれて栄え、多くの日本神話や伝承の舞台としても知られています。 ”海の京都 ”とも呼ばれる京丹後市にあるのが、1997年に開業した「丹後王国ブルワリー」。西日本最大級の敷地面積を誇る道の駅 丹後王国「食のみやこ」内にある醸造所で、丹後地域のシンボルでもある丹後七姫にちなんだ「TANGO KINGDOM Beer」を造っています。創業時から醸造責任者を務める山口道生さんにお話を聞きました。

定番ビールが7種類もある醸造所は珍しいでしょう?(笑)。

うちは京丹後地方にゆかりのある「丹後七姫」にちなんで、7種類の定番を造っています。ボトルビールのラベルには、乙姫や羽衣天女、小野小町、細川ガラシャなど、丹後地域のシンボルになっている7人のお姫様がそれぞれ描かれているんです。

たとえば、安寿姫が描かれた「マイスター」は副原料にお米を使ったライス・ピルスナー。名前に米(マイ)を掛けて、精米歩合80%の丹後産コシヒカリをパウダー状にしたものを使っています。いつも私たちが食べている食用米に近い磨き具合のお米を使うことで、お米本来のうま味を引き出して、マイルドな口当たりとラガーらしいクリアな味わいを両立させました。クセがなくてゴクゴク飲めるので、最初の1杯にはもってこいですよ! うちで一番人気のビールです。

「ヴァイツェン」はバナナやクローブを思わせるフルーティな香りと小麦麦芽に由来するやさしい口当たりが特徴のヘーフェヴァイツェン。丹後町にある「間人港灯台」には聖徳太子の母である「間人皇后」が住んでいたという伝承があって、ラベルには間人皇女が描かれています。このヴァイツェンは今年開催したビールの審査会「ジャパン・グレートビア・アワーズ2021」で金賞を入賞しました。

 

「ピルスナー」はモルトのうま味と爽やかな喉越しが楽しめる、ボヘミアンスタイルのピルスナー。羽衣天女が舞い降りた山とされる峰山町の「磯砂山」は、日本最古の羽衣伝説発祥の地と言われていて、ラベルに羽衣天女が描かれています。

こうして丹後地域と結びついた個性豊かなビールを取りそろえることで、丹後生まれのビールと一緒に、この地方の歴史にも親しんでもらいたいという願いを込めています。「海の京都」と呼ばれ、海産物も農産物も自然の恵み豊かな丹後の魅力をビールで多くの人に伝えたい。丹後王国ブルワリーは、丹後地域を盛り上げる ”地域商社”の役割も担ったビールメーカーなんです。

この丹後七姫シリーズは、2015年に道の駅・丹後王国「食のみやこ」がリニューアルオープンするのと同時にスタートしたブランドですが、私はリニューアル前の農業公園だった時代から、24年前の1997年、醸造所の立ち上げからここのビールを見守っています。

ビールのイベントってなんて楽しいんだろう!外の世界を知ったんです。

丹後王国ブルワリ―がある道の駅・丹後王国「食のみやこ」は、西日本最大級の広さを誇る道の駅です。甲子園球場8個分もある広大な敷地内には、丹後の食材をふんだんに使ったレストランや自家製ソーセージ・パン工房、地元農産物の直売所など「食」にまつわる施設の他に動物園や宿泊施設、アトラクションもあって、休日は多くの家族連れや観光客でにぎわいます。

もともとは京都府が管理していた農業公園で、私がブルワーになったのは1997年に食品製造部門の求人募集を見て応募したのがきっかけです。実はブルワリーができることを知らなくて、てっきりソーセージやパンの製造業務だと思って応募したんですが、面接で「ビールは好きか?」と聞かれて(笑)。そこで初めてビール工房ができることを知ったんです。ビールは大手メーカーにあるような大規模な製造ラインでしか造れないものだと思っていたので、小規模な設備で造れることを知って驚きましたね。

昔からビールは好きだったんです。海外のものもよく飲んでいましたし。

妻と結婚する前、デートでよく行っていた京丹後市のレストランに海外のボトルビールが置いてあったんです。当時は輸入ビールそのものが珍しかったので、お店を訪れるたびに「今日はここからここまで」と、棚にあるビールを少しずつ制覇して飲んでたんです(笑)。だから醸造所の立ち上げから携わることに。

醸造修行として、滋賀県の「滋賀農業公園 ブルーメの丘」にあった「近江ブルーメンビアー」(※1)でビール造りを手伝うことからスタートしました。ブルーメの丘はうちと同じような農業公園型ブルワリーで、当時は1日1万人も来園する大人気の施設。人も設備もフル稼働で、毎日必死に覚えていましたね。

 

半年後、自分では完璧に醸造技術をマスターしたつもりで自社工場のオープンを迎えたんですが、その自信は早くも打ち砕かれました。何度やっても思い通りの味にならないんです。造るたびに「これでいいんだろうか?」という不安が尽きなくて、特にビールに望ましくないオフフレーバーの消し方に苦戦していました。でも醸造担当は私一人。他のブルワリーとの交流もない一匹狼だったので、誰にも相談できず悩んでいましたね。

突破口は、関西で開催された「CRAFT BEER LIVE」への出店でした。

10年前、初めてビールイベントに出店したんです。地元行事などの出店経験はありましたが、実はビールに特化したイベントに出るのは初めて。関西拠点のブルワリーが集結するイベントで、「なんて楽しいんだろう!」って心が躍りました(笑)。悩んでいた課題を同業者である他社のブルワーに相談すると、これまでになかった視点で的確なアドバイスがもらえるんです。その逆もしかりで、一気に視野が広がりました。

それと同時に自分の勉強不足も痛感して……。

そこから関西のブルワー勉強会に参加したり、ブルワリー同士の交流が始まったりして、醸造の技術的なことはもちろん、さまざまな悩みを相談できたことが貴重な経験になりました。学んだことを自分のビール造りにフィードバックして、安定した味づくりができるようになったと思います。

そのおかげで、ここ数年で国際的な賞もいただけるようになりましたが、個人的にはまだまだブラッシュアップが必要だと感じています。特に管理の難しいラガースタイルはおいしくなる余地が十分にあります。毎日飲みたいと思ってもらえるビールを目指して、定番商品の品質向上は常に意識しています。

2020年から敷地内でホップ栽培もはじめて、今年は収穫したホップで初めてフレッシュホップビールを仕込みました。まだ収穫量が少ないので醸造量もわずかですが、「マイスター」の香りづけに使っています。いずれ丹後産100%のクラフトビールを造るという夢に向けた最初の一歩です。

ビールは五感を使って楽しむもの。

ビール造りの前後にも広がりのある文化だと思いますし、丹後の地域力でその文化を広げていきたいですね。ビールをとりまく環境、生まれたバックグラウンドやストーリーも、その味わいに彩りを添えるものだと思いますから。

※1 2018年に醸造終了。現在は醸造設備を「HINO BREWING」が使用している。

取材・文/山口 紗佳

鈴木オーナー

僕は80年代の洋楽をよく聴くんですが、たとえば「アンバーエール」を飲むと、アメリカのロック歌手、ディオンヌ・ワーウィックの「ハート・ブレイカー」を聴きたくなります。広々とした空に響き渡るような彼女の伸びやかな歌声が、ホップ由来の爽やかな柑橘フレーバーが広がる様子とリンクするんです。皆さんもさまざまなモノやコトとビールとのペアリングを楽しんでください。

OTHER BREWERIES

その他のブルワリー

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Monterey Brewing

長野県塩尻市

福島のおいしいビールをお届けすることが一番の恩返しになるから、技術を磨き続ける。

みちのく福島路ビールは、福島市郊外の丘陵にあるアンナガーデン内に1997年に創業された家族経営の醸造所。吾妻山系を臨むうつくしいガーデン内で、厳選された原料と地元の果物を使ってつくられるビールにはファンも多くいます。現在醸造長を務める吉田真二さんは、2009年にホテルの仕事からビール醸造の世界に飛び込みました。醸造への不安や、東日本大震災によって何度も壁に当たりますが、その度に手を差し伸べてくれたお客さんやブルワー仲間、家族がいました。多くの人たちとの助け合いの輪が、今のみちのく福島路ビールのおいしさにつながっています。

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福島路ビール(福島県)吉田 真二

福島県福島市

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カルテットブルーイング(長野県)椎名 将

長野県軽井沢町

もっと自由に!もっと面白く!もっと気軽に!クラフトビールを身近なものにしたい

「Vector Brewing」がある東京都台東区浅草橋は、下町の情緒が残るモノづくりの町。2016年に新宿で誕生した醸造所は、2017年に醸造の拠点を浅草橋に移し、常に“面白い”ビールを発信しています。それはクラフトビールをもっと自由で気軽に楽しんでもらうため。ユニークなデザインとネーミング、豊富なラインナップは初心者でも手に取りやく、クラフトビールファンをジワジワと増やしています。元銀行員でラガーマンだという異色の経歴をお持ちのブルワー三木敬介さんにお話を伺いました。

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VECTOR BREWING

東京都大田区

ビール文化が根づいたカナダのように、日本でもおいしいビールを気軽に

北海道の中部、石狩平野の中央にある江別市は、国産小麦の代表格として知られる「ハルユタカ」が生まれた土地。パンや麵、スイーツ、ビール醸造に適した国産品種がいくつも誕生した日本有数の小麦の産地です。札幌市の中心部から近く、空港や港湾へのアクセスも良いことから、生活に便利なベッドタウンでもあります。その江別自慢の「ハルユタカ」を使ってビールを醸造しているのが、2009年から江別市で醸造をしている「NORTH ISLAND BEER」。元ヘッドブルワーで現在は取締役工場長を務める多賀谷壮さんにお話を聞きました。

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NORTH ISLAD BEER(北海道)多賀谷 壮

北海道江別市

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