ビールの縁側

ブルーウッドブリュワリー(和歌山県)のはなし

和歌山のええとこはウマいもんが教えてくれる、だから有田のええもん使ってるんです。

和歌山県の中央部に位置する有田川町は、東西に流れる有田川を中心に豊かな自然景観が広がるまち。温州みかんの名ブランド「有田みかん」や、生産量日本一を誇る「ぶどう山椒」をはじめとして、柑橘類やすもも、キウイ、トマトなどの名産地として知られています。その有田川町にある酒販店「青木屋酒店」が2017年に設立したのが「ブルーウッドブリュワリー」。地元有田川の季節の特産品を取り入れたビール造りを心がけているマイクロブルワリーです。オーナーで醸造責任者の児島章さんにお話を聞きました。

街の小さな醸造所だから、小回りを利かせたおもろいもんを造りたい。

 

小さな田舎町にある小さな醸造所ですが、地元ならではの和歌山のええもん使ってビールを造ってます。2017年に醸造を始めて一番最初に造ったのが、有田みかんのビールと紀州の梅を使ったビールの2種類。地元で有名な有田みかんを使って自分で造ってみたくて。ところが仕込みの時期はみかんの季節じゃなかったもんだから、高価なハウス栽培のみかんを買って自分で搾ったんです。今ならみかんの旬に収穫して搾ったみかん果汁を冷凍しておくとか、いくらでも方法はあったんですけどね。当時は材料集めの知識もツテもなかったもんで……(笑)。

 

地元のお祭りに合わせて仕込みましたが、地元の人は果物を使ったビールを飲んだことがない人ばかり。なんてったって、ビールといえばアサヒの「スーパードライ」一択ですから(笑)。これがビールなの!? ってビックリされたり、おもしろがられたり、いろんな反響をもらいました。

もちろん「有田みかんエール」はうちの看板商品。

それから季節に合わせて、地元ならではの特産品を使ったビールを造っています。これまでに使ったのは、はっさく、すもも、いちご、ゆず、レモン、巨峰、スイカ、生姜、ぶどう山椒など。果物王国なので、自然とフルーツビールの比率が高めになりますね(笑)。

 

定番ビールでは有田名産のぶどう山椒を使った「有田山椒エール」も個性的かな。

和歌山の中でも有田川の山間部でとれるぶどう山椒は、「緑のダイヤ」と呼ばれるぐらい品質の良い最高級品。一粒一粒が大きくて果は肉厚、スパイシーな香りもフレッシュで鮮烈です。このぶどう山椒をホール状態から粗びきにして、煮沸時と発酵段階の2回、ドライホッピングのようにビールに漬け込むことで爽やかな香りをたっぷりビールに移しています。

和歌山にはビールに使える地場産品がたくさんあるし、地元に密着した小さな醸造所だから、小回りのきくおもろいもんを造りたい。そんな思いで「備長炭スタウト」も造ってみました(笑)。備長炭の発祥の地、紀州でつくられる紀州備長炭も最高品質として有名、ええもんですからね。豊富に含まれたミネラルや浄水効果を使って、一流料亭の炭火料理や炊飯、最近ではスイーツや炭火焙煎コーヒーにも使われています。アイスクリームの製造をしている後輩にすすめられて、食用備長炭パウダーを使ってスタウトを仕込んだんです。備長炭そのものは無味無臭なんですが、ロースト麦芽が香る「飲める炭」に仕上がってます(笑)。

 

和歌山の果物を使ったビールなら、地元で受け入れてもらえる気がしたから

 

ブルーウッドのビールは工場直売所の青木屋酒店で売っていて、提携している隣の韓国料理屋では数種類の樽生ビールを飲むことができます。工場は居酒屋やスナックが並んだビルにあるので、ハシゴするお客さんやフラッと寄る地元の方が多いですね。僕がビールを造ろうと思った理由は、ビールならではの気軽さや親しみやすさだったので、そうやってお店に寄ってもらえるのはうれしいですよ。お酒の中で一番とっつきやすい飲みものっていうと、やっぱりビールなんで。

ブルーウッドブリュワリーは、僕が家業の青木屋酒店を経営しながら開業したマイクロブルワリーです。屋号は酒屋のすぐ横に生えていて、シンボルツリーになっている「青木」の樹=ブルーウッドから。オリジナルキャラクターのブルーウッド君もそれにちなんでいます(笑)

僕が10年以上前に継いだ青木屋酒店は祖父母の代から続く酒販店ですが、地元飲食店にお酒を卸す業務用販売が中心。酒屋で扱う商品はどこも似たようなものですから、「この店じゃなければいけない」っていう理由がないんですよ。差別化がすごく難しい。若い世代は街の酒屋でお酒を買わないし、価格でも量販店には敵わない。そこで、オリジナル商品をもちたいと考えていました。自分で造ったお酒を売りたい。それなら誰でも気軽に飲めるビールがいいって。

でも昔、僕が気になる国産地ビールを売っていたときは、ほとんど反応がなかったんです。価格も高いし地元の人に馴染みがなかったせいか全然売れなかった(笑)。ただ、その頃は飲みやすいフルーツビールのようなビアスタイルがなかったんですよね。地ビールと言ってもバリエーションがなかった時代。

僕自身も東京のビアバーで初めてさまざまなクラフトビールを飲んで、ビールにはライトなものから重いものまで、たくさんの味があることを知ったばかり。ビールって最初の1杯どころか、アルコール度数や味わいを変えてずっと飲んでいられるお酒ですよね。素材やスタイルで味わいが全く違うじゃないですか。だから和歌山の果物を使ったビールなら地元の人に受け入れてもらえる気がしたんです。

そこで、小規模醸造所の開業支援をしている会社の醸造セミナーを受講して、ビール造りの勉強をスタート。2015年に岡山県にある「吉備土手下麦酒醸造所」を訪れて社長に熱意を伝え、研修を受けさせてもらいました。酒屋を切り盛りしながらの醸造修行だったので、トータルで1年半から2年ぐらいかけて岡山と和歌山を行ったり来たり。その間に並行して醸造設備の選定や税務署に提出する申請書類などの開業準備も進めていました。

ちょうど同じタイミングで研修を受けていたのが、奈良県で「なら麦酒ならまち醸造所」を開いたブルワー青山さん。同じように小さな街のビール工房を目指していて、僕より少し早いオープンが決まっていたので、店づくりの手伝いも経験させてもらいました。こうして2017年7月に醸造免許がおりて初めての商用製造。

これから実際にお客さんに販売する商品を自分が造るんだと思うと、今までに感じたことのないプレッシャーを感じました。

醸造に慣れてきた2019年からはイベントに出店するようになって、あるとき大阪のビールイベントでうちのビールを飲んだ方が、醸造所まで来てくれたことがあったんです。有田川町は観光目的で来るような場所じゃないので、わざわざ寄ってくれたことがうれしくて。県外のイベントに出ると和歌山出身のお客さんが気さくに話しかけてくれたり、クラフトビールを飲んだことがない人がうちのビールを楽しんでくれたり、ビールを通じたつながりが広がっていくことにやりがいを感じました。だから、コロナ禍でイベントが軒並み中止になったのはきつかったですよ。外販用にたくさんビールを仕込んでいて、ブルワリーとしてもこれからという矢先だったので。

でも少しずつ地元での認知度も上がってきたし、ビールに使える和歌山のウマいもんはまだまだあると思います。今まで造っていなかったさまざまなビアスタイルにも挑戦していきたいですね。

取材・文/山口 紗佳

鈴木オーナー

和歌山のええもん使ってビールを造ってます。おもろいもんがたくさんあるので、せっかくなら一人で飲むよりみんなでワイワイ、話のネタにでもしながら飲んでください!

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