ビールの縁側

ふたこビール醸造所のはなし

ビールも麦茶も味噌づくりも。
“ふたこ”育ちのものでコミュニティも醸されていく

東京都世田谷区二子玉川エリア。
東京中心部に近いアクセスと充実した商業施設がありながらも、多摩川に面した豊かな自然や昔ながらの商店街と、快適な住環境に恵まれた二子玉川は、都会の利便性と自然が調和したエリア。古くから住宅地として人気を集めています。二子玉川駅周辺では再開発が進み、玉川高島屋ショッピングセンターの裏路地に誕生した商業施設が「柳小路」です。個性豊かな飲食店が入る柳小路の南角に2019年にオープンした「ふたこビール醸造所」。代表でブルワーの市原尚子さんにお話を聞きました。

ママ友の雑談から会社を起こすことになるなんて!

 

仕事帰りに地元のママ友と軽く1杯飲んで帰る「夕暮れ女子会」。

 

夕飯準備までのひとときの息抜きに、定期的に開催していた雑談で出てきたのが「ふたこに地ビールがあったらいいね」でした。当時はお店のバリエーションが少なかったので、そういう場が増えたらいいなと思って。それを2014年に地域のコミュニティでママ友がプレゼンすることになったんです。プレゼンといってもビジネスコンテストのような堅苦しい場ではなく、二子玉川で新しいことや、夢を実現するためにできたざっくばらんな発表会。そこで「ふたこエールでふたこの街にエールを送ろう」って一緒に披露したら思いがけず評価されて、あれよあれよという間に……ここまできました(笑)。

 

ほんの軽い気持ちで言ってみたネタで、まさか自分たちですることになるとは!

 

そのときはまだ事業を立ち上げるところまで考えていませんでしたが、一緒にプレゼンしたママ友と各地のブルワリーやビアバーを回るうちに、クラフトビールの魅力に引き込まれていったんです。二人とも子育て中で、飲み歩くことなんてなかったので初めて知るビールの世界。ビールは単なる飲み物ではなくて、誰とでも仲良くなれるコミュニケーションツールなんだと実感しました。初対面同士でもすぐに打ち解けて、ビールを介してコミュニティができていく。そんな光景を目の当たりにして、次第にモチベーションが上がってきたんです。ふたこエールもそうなったらいいなと。

 

 

とはいえ、ビールにはまったく縁のない人生。

 

ビールの造り方も、機械も、費用も、会社設立も何もかも手探り! なんとか地域の人に聞いたり、自分たちで調べたりしながら事業プランを立てて、2015年2月5日“ふたこの日”に「ふたこ麦麦公社」を設立しました。

 

第一弾として、まずは他社の醸造設備を借りて仕込みの研修を受けながら、考えたレシピをもとに「二子玉川発のビール」としてリリース。単にビールを売るのではなく、「ふたこの景色に溶け込んだビール」として、街でビールを楽しむ文化を広めたいと思っていました。多摩川のほとりや美術館の庭園でビアガーデンを開催したり、公園のイベントや地元のお祭りで提供したり、世田谷地域を中心に少しずつ知ってもらえるように出していったんです。

 

一方で、ブリューパブの物件探しは難航。長く険しい道のりでした……。

 

なにせ住居専用地域がほとんどを占める二子玉川。醸造設備を置ける物件が壊滅的にない!川崎や世田谷の他の地域も探しましたが、やっぱり店舗は二子玉川にもちたい。土地の登記を調べて、何度も交渉して、決まりかけては断念を繰り返していました。ようやく条件に合う物件を見つけて1年がかりで計画を進めていたら、急にダメになってしまって‥…。このときは相当こたえましたね。何か月も無気力で寝込んじゃうぐらい。

 

こうして2018年11月、設立から4年がかりで念願のふたこビール醸造所がオープンしました。

 

自家焙煎の麦茶に味噌づくり。小さな波が輪のように広まって。

 

物件探しに難航していたとき、この柳小路 南角の物件に出合ったんです。物件が決まってからも醸造設備の搬入やら内装やら、店舗づくりのあらゆるシーンで悪戦苦闘。醸造免許の申請も初めてでしたから苦戦して、50回ぐらい差し戻しをくらったんじゃないでしょうか(笑)。実はまだ今も一部工事中なんです。

 

普通の会社員として生きていたら、することのない苦労ばかり(笑)

 

でもそのおかげで、ふたこビールを始めなければ絶対に出会わない人や、得られない経験がたくさんできました。挫折しそうなときも何度もありましたが、そのたびに周囲が助けて応援してくれて、ようやく実現したブリューパブなんです。

 

ラインナップで一番人気はやはり地元の名前がついた「フタコエール」。

 

レシピは女性でも飲みやすいように、上品で香りのよいものを意識しています。そして何杯もおかわりしたくなるようなすっきりさとバランスを兼ね備えたもの。定番5種類に加えて、旬の素材を使って仕込む季節限定のビールもあります。

 

 

ふたこビールのテーマはコミュニティづくりと地産地消。

 

なるべく二子玉川の素材を取り入れたくて、2015年から「世田谷ホッププロジェクト」に取り組んでいます。各家庭にホップの苗を配ってお庭やベランダで育ててもらい、収穫したホップを持ち寄って仕込みに使うんです。夏にはツルが伸びてグリーンカーテンになるので、ホップグリーンが街の風物詩になったらと思ってはじめました。栽培方法はホップ栽培がさかんな岩手県遠野市に定期的に行って、その道50年のベテラン農家さんに教わっています。方言が強くて半分近く聞き取れずに苦戦していますが(笑)。

 

さらに会員交流の場として「瀬田の畑」を運営しています。

 

高級住宅地の一角にあるこの畑は、日本で一番地価の高いホップ圃場なんじゃないでしょうか(笑)。畑ではホップの他に大麦、大豆も育てていて、栽培した麦を焙煎して麦茶を造る「麦茶プロジェクト」も進行中です。ノンアルコールならお酒が飲めない人や子供、妊娠中でも楽しめるでしょう。お客様は地域住民を中心に、老若男女問わずさまざま。ファミリー層も多いので、コーヒーや麦茶などのソフトドリンクにもこだわりたいんです。大豆は味噌や納豆と、ホップより活用幅が広いので、そっちに熱中しちゃう人も(笑)。ふたこのもので地域コミュニティを盛り上げることが目的なので、ビールに限らず、さまざまな活動を通して新しい人の輪が広がっていけばいいなと思っています。

 

 

乾杯って人と人との距離を縮める素敵な文化だと思うんです。

 

2020年はコロナ感染拡大防止による自粛のため、恒例の乾杯イベントも自粛するつもりでしたが、2020年ならではの乾杯風景を記録しておきたいと思い、6月6日6時6分を皮切りに、9月までの毎月ゾロ目の日に、多摩川で「ライン乾杯」を開催しました。拡大防止に配慮して1メートル間隔で川に沿って並び、時間になったら一斉に川に向かって静かに乾杯、という今年ならではの乾杯です。何もしないよりは、今できることを最大限に楽しむ。

 

小さなことだけど、きっかけを作って声を上げたら、ママ友の雑談から生まれたふたこビールのように実現していんじゃないかと思って。ビールがこの街の景色に溶け込んで、みんなが笑顔になるのを見るのはやっぱりうれしいですから。

 

取材・文/山口 紗佳

鈴木オーナー

世田谷の人たちが世田谷育ちのものを使って仕込んだビールです。ビールで私たちの大好きなこの「ふたこ」、二子玉川の街をイメージしてもらえたら。「ビールの縁側」を通じて、好きな場所でフレッシュな樽生ビールが飲める、それが缶やボトルのように日常的な選択肢に加わったら素敵だと思います。

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その他のブルワリー

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Monterey Brewing

長野県塩尻市

福島のおいしいビールをお届けすることが一番の恩返しになるから、技術を磨き続ける。

みちのく福島路ビールは、福島市郊外の丘陵にあるアンナガーデン内に1997年に創業された家族経営の醸造所。吾妻山系を臨むうつくしいガーデン内で、厳選された原料と地元の果物を使ってつくられるビールにはファンも多くいます。現在醸造長を務める吉田真二さんは、2009年にホテルの仕事からビール醸造の世界に飛び込みました。醸造への不安や、東日本大震災によって何度も壁に当たりますが、その度に手を差し伸べてくれたお客さんやブルワー仲間、家族がいました。多くの人たちとの助け合いの輪が、今のみちのく福島路ビールのおいしさにつながっています。

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福島路ビール(福島県)吉田 真二

福島県福島市

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もっと自由に!もっと面白く!もっと気軽に!クラフトビールを身近なものにしたい

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VECTOR BREWING

東京都大田区

ビール文化が根づいたカナダのように、日本でもおいしいビールを気軽に

北海道の中部、石狩平野の中央にある江別市は、国産小麦の代表格として知られる「ハルユタカ」が生まれた土地。パンや麵、スイーツ、ビール醸造に適した国産品種がいくつも誕生した日本有数の小麦の産地です。札幌市の中心部から近く、空港や港湾へのアクセスも良いことから、生活に便利なベッドタウンでもあります。その江別自慢の「ハルユタカ」を使ってビールを醸造しているのが、2009年から江別市で醸造をしている「NORTH ISLAND BEER」。元ヘッドブルワーで現在は取締役工場長を務める多賀谷壮さんにお話を聞きました。

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NORTH ISLAD BEER(北海道)多賀谷 壮

北海道江別市

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