ビールの縁側

横浜ベイブルーイングのはなし

世界一のピルスナーを目指す醸造所から、果てしないビールの大海へ漕ぎ出した。

日本のビール発祥の地、横浜の関内で2011年8月にオープンしたのが「BAY BREWING YOKOHAMA」(後の「ベイブルーイング関内本店」)です。2012年1月に醸造免許を取得し、ブルーパブとして営業をスタートしました。2016年7月、生産量拡大に伴って戸塚に新工場を設立。「世界一のピルスナー」を目指した醸造長の鈴木真也さんが、ピルスナーの本場チェコにたびたび赴いて学んだオールドスタイルのボヘミアンピルスナーを得意としています。「横浜DeNAベイスターズ」の球団オリジナルビールを製造するなど、横浜に根づいたビール造りで高い人気を集めるブルワリーです。2017年からブルワーを務める手嶋弘樹さんにお話を聞きました。

横浜ベイブルーイングのはなし一人前の醸造士として、航海を決断したのが「出航IPA」

 

大学4年生のときだから、もう10年前ですね。僕が初めてクラフトビールにふれたのは、ヤッホーブルーイングの「よなよなエール」でした。アルバイト先の社員さんが教えてくれて飲んだんです。飲み慣れた大手メーカーのビールとは全く違う、爽やかな香りと苦味に驚きました。それからネット通販や出先でクラフトビールを見つけては買って飲んだり、大阪でブルワリー巡りをしたり、ビールの世界にハマっていったんです。

 

大学卒業後は、名古屋にある自動車関連部品の商社に就職しましたが、26歳~27歳でビール業界への転職を考えるようになりました。30歳になる前には、自分が本当に好きなことを仕事にしたいと考えていたからです。もっとビールに触れるきっかけを増やして、ビールの楽しみを広めたいと思って転職活動をしていたところに、横浜ベイブルーイングとご縁があったんです。2007年5月の入社後すぐに先輩の退職を知り、引継ぎが始まりました。およそ1カ月間で、醸造設備の扱い方から税務署に出す帳簿のつけ方まで、一生懸命仕事を覚えましたね。力仕事が多いのでつらいときもありましたが、少しでも早く一人前のブルワーになるために少しずつ経験を積んできました。

 

 

こうして3年経った2020年4月、僕がブルワーとして初めてレシピからデザインしたビールが世に出ることに。港から大海原へ、航海に出るという意味を込めて「出航IPA」と名付けたペールエールです。飲みやすくて安心感のある味わいにしたくて、柑橘系のアロマホップを使いながらも、苦味や香りが尖りすぎないバランスを目指しました。特徴としては地味かもしれませんが、看板商品の「ベイピルスナー」のように何杯でも飽きずに飲めるビールにしたくて。とっつきやすいビールが好きなんです。

 

残念ながら、リリースする時期は新型コロナウイルス感染症拡大によって出店予定だったイベントが取りやめになってしまい、出航IPAのお披露目は叶わなくなってしまいましたが、ボトルで飲んだお客様にはおいしいという感想をいただけて手ごたえを感じましたね。つくり手としてお客様の反応は参考になりますし、応援していただけるとモチベーションになります。そういう意味では、お客様の表情が直接見られるイベントが相次いで中止になってしまったのは残念です。出店する他のブルワリーのビールをテイスティングするのも勉強になりましたし。

 

実は入社2年目あたりから鈴木に「自分のレシピで造ってみたら?」とたびたび言われていたんですが、うちの1回の仕込み量は1,000L。ひと通りの醸造を任されるようになったとはいえ、万が一商品にならないものができたら……と思うと、なかなか踏ん切りがつかなくて。ビビッてましたね(笑)。

 

手間も時間もかかる。すべてはおいしいピルスナーのために

 

醸造経験が浅い頃は商品開発に気後れしてしまうほど、うちのビールは世界に誇れる品質だと思っていますし、実際に「ベイピルスナー」は2014年2月に開催されたチェコ最大のビール品評会である「GOLD BREWER’S SEAL(ゴールド ブルワーズ シール)2014」で、アジア勢として初めての金賞を獲得しています。ピルスナー発祥の地、そして今でもピルスナーの本場として知られるチェコのビアコンペで、世界各国から出品されたピルスナーを抑えて日本のボヘミアンピルスナーが1位に輝いたことは快挙と言えます。

 

日本人にもっとも馴染み深いビアスタイルであるピルスナー。

 

大手ビールメーカーの定番ビールの多くがこのカテゴリーに属していますが、ピルスナーにはさらに細かい分類があって、代表格がドイツ発祥の「ジャーマンピルスナー」とチェコのボヘミア地方発祥の「ボヘミアンピルスナー」。うちの「ベイピルスナー」はボヘミアンピルスナーにあたります。ライトですっきりした味わいのジャーマンスタイルに比べて、ミディアムボディで香ばしい麦の香りとフレッシュなホップの香りがしっかりと感じられる味わいがボヘミアンピルスナーの特徴ですね。うちはチェコで伝統的な「トリプルデコクション」という製法を取り入れています。

 

 

「デコクション」というのは、麦汁を煮出す方法のひとつです。

 

麦芽に含まれるでん粉を糖に変える糖化という段階で、トリプルデコクションという方法では、一部の麦汁を取り出して別の窯で煮込み、それを元の窯に戻すという作業を3回も繰り返しています。温度を段階的に変えながら手間と時間をかけて麦汁をぐつぐつ煮込むんです。一つの窯で麦汁全体の温度を上げていく「インフュージョン法」と比べて仕込みにかかる時間は倍以上になりますが、おいしいピルスナーを造るためにあえて伝統的な製法で取り組んでいます。

 

うちがGOLD BREWER’S SEALを参考にして、ブルワー自身がブラインドでビールを審査するランキング形式の審査方式をそのまま日本にもってきたのが、横浜の大さん橋ホールで開催している「JAPAN BREWERS CUP(ジャパンブルワーズカップ)」です。主催者として準備に奔走するので大変ですが、ブルワーもお客様も多くのビールファンが楽しみにしてくださるイベントです。2021年はコロナ禍で開催できませんでしたが、飲食店の休業によってビールが消費されない窮状をSNSで訴えたところ、たくさんの方がEC販売を通じて購入を手助けしてくれました。思った以上に反響が大きくて、1日200件という経験したことのない出荷作業に追われましたが(笑)。これは本当にありがたかったですね。

 

まだまだ先の見えない世の中ですが、ブルワーができることはおいしいビールを造ること。2020年12月にはクラフトジンの蒸留所もオープンしました。これからも皆さんが笑顔になれる世界一のピルスナーを目指しながら、さまざまなクラフトドリンクに挑戦していきたいと思っています。

 

取材・文/山口 紗佳

鈴木オーナー

なんといっても一番人気で看板商品の「ベイピルスナー」がおすすめ。手間も時間も愛情も、惜しみなくたっぷり注がれたフラッグシップです。毎月開催している工場見学にもぜひお越しください!看板猫のミッキーが皆さまをお迎えします(笑)

OTHER BREWERIES

その他のブルワリー

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Monterey Brewing

長野県塩尻市

福島のおいしいビールをお届けすることが一番の恩返しになるから、技術を磨き続ける。

みちのく福島路ビールは、福島市郊外の丘陵にあるアンナガーデン内に1997年に創業された家族経営の醸造所。吾妻山系を臨むうつくしいガーデン内で、厳選された原料と地元の果物を使ってつくられるビールにはファンも多くいます。現在醸造長を務める吉田真二さんは、2009年にホテルの仕事からビール醸造の世界に飛び込みました。醸造への不安や、東日本大震災によって何度も壁に当たりますが、その度に手を差し伸べてくれたお客さんやブルワー仲間、家族がいました。多くの人たちとの助け合いの輪が、今のみちのく福島路ビールのおいしさにつながっています。

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福島路ビール(福島県)吉田 真二

福島県福島市

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カルテットブルーイング(長野県)椎名 将

長野県軽井沢町

もっと自由に!もっと面白く!もっと気軽に!クラフトビールを身近なものにしたい

「Vector Brewing」がある東京都台東区浅草橋は、下町の情緒が残るモノづくりの町。2016年に新宿で誕生した醸造所は、2017年に醸造の拠点を浅草橋に移し、常に“面白い”ビールを発信しています。それはクラフトビールをもっと自由で気軽に楽しんでもらうため。ユニークなデザインとネーミング、豊富なラインナップは初心者でも手に取りやく、クラフトビールファンをジワジワと増やしています。元銀行員でラガーマンだという異色の経歴をお持ちのブルワー三木敬介さんにお話を伺いました。

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VECTOR BREWING

東京都大田区

ビール文化が根づいたカナダのように、日本でもおいしいビールを気軽に

北海道の中部、石狩平野の中央にある江別市は、国産小麦の代表格として知られる「ハルユタカ」が生まれた土地。パンや麵、スイーツ、ビール醸造に適した国産品種がいくつも誕生した日本有数の小麦の産地です。札幌市の中心部から近く、空港や港湾へのアクセスも良いことから、生活に便利なベッドタウンでもあります。その江別自慢の「ハルユタカ」を使ってビールを醸造しているのが、2009年から江別市で醸造をしている「NORTH ISLAND BEER」。元ヘッドブルワーで現在は取締役工場長を務める多賀谷壮さんにお話を聞きました。

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NORTH ISLAD BEER(北海道)多賀谷 壮

北海道江別市

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