ビールの縁側

宮崎ひでじビール(宮崎県)のはなし

南国の風土と人が醸す、宮崎生まれのビールを心から楽しめるように

延岡市街地から車で約20分。全山に奇岩・壁がそそり立ち、東岳(雌岳)と西岳(雄岳)と呼ばれる2つの岩峰から成り立つ行縢(むかばき)山は延岡市のシンボルです。その行縢山の名水を仕込みに使うのが「宮崎ひでじビール」。会社は2010年設立ですが、醸造所の創業は酒税法の規制緩和の流れを受けた1996年。石油販売を手掛ける親会社から、従業員がビール事業を買い取り、独立する形で生まれ変わったのが今のひでじビールです。
2014年2月からブルワーを務める森翔太さんにお話を聞きました。

オール宮崎にこだわるのは、地元の応援なくしては存在していなかったから

 

ひでじビールが得意とするのは、宮崎の果物を使ったフルーツビールとラガースタイルです。冬でも気候が温暖な宮崎ではさまざまな農作物が作られていますが、特に栽培がさかんなのは柑橘類。日本有数の柑橘天国です。柑橘類といっても種類がとても多くて、季節限定ビールに使ったことがあるもので7種類ほど。

 

金柑や不知火(デコポン)、グレープフルーツ、かぼす、ゆず、へべす、そして最近注目されている宮崎特産の「日向夏」ですね。日向夏は他の柑橘類と食べ方が少し違ってワタ(白皮)が苦くないんです。むしろほんのり甘いのでワタごと果肉を食べます。グレープフルーツほど酸味が尖っておらず、しつこくない自然な甘さが特徴。これをビールにも反映しています。柑橘類の種類ごとにその特徴を把握して、キャラクターを最大限に引き出して仕上げること。これに長けているのがひでじビールです。

 

 

地域に根差したビール造りで地域を盛り上げたい。

 

醸造所の理念「Think Global,Brew Local.」には、世界を見据えた視点をもちながら、地元宮崎の人や風土でビールを醸すという想いが込められています。その取り組みのひとつが「宮崎農援プロジェクト」。宮崎県内の農海産物を使った商品開発に取り組むことで、宮崎の一次産業を盛り上げるプロジェクトです。ひでじビールを代表する数々のフルーツビールもこのプロジェクトがきっかけ。2016年には、県内でしか飲めない宮崎県産麦芽100%のピルスナー「YAHAZU(やはず)」も実現しました。「いつかオール宮崎のビールを造りたい」という願いから、10年かけて「みやざきモルト100%」を実現したビールです。

 

宮崎ではビール用の二条大麦がほとんど栽培されていませんでしたが、「YAHAZU」は県内の専用農家と連携して育てた大麦を使っています。当初は大麦を麦芽にする作業にはザルを使い、人の手で地道に大麦をかきまぜていましたが、地元の鉄鋼メーカーと専用の麦芽製造機を開発。金属加工が得意な延岡で製造したタンクも増設して量産体制に備えました。多くの人の「みやざき愛」がたっぷり詰まったビールです(※1)。

 

 

2016年からは近隣の農家と協力してホップ栽培にも取り組んでいます。ホップは涼しい環境を好む作物なので難しいのではという懸念もありましたが、台風や日照り、火山灰の降灰など数々のトラブルに悩まされながらも挑戦を続けています。

 

うちがオール宮崎、地元にこだわるのは、今のひでじビールは地元の応援なくしては存在していなかったから。2010年に設立した会社ですが、醸造所の操業は石油販売を行う親会社の一部門としてはじまった1996年。2000年代に経営難から事業撤退の危機に追い込まれましたが、品質改善のためにすべての醸造設備を解体。衛生管理を徹底的に見直して、酵母を自家培養するための高額な設備も導入しました。その結果、フレッシュな酵母が活発に働くようになって、品質が目に見えて上がったと聞きます。

 

ところが、親会社から通告されたのがビール事業の撤退……。
コンペでも受賞するようになってこれからというときで、「なんとか醸造を続けたい」と親会社からの独立を率いたのが今の社長、永野でした。商品もリニューアルして再出発したものの、独立直後に宮崎を襲った口蹄疫や鶏インフルエンザの蔓延で、畜産業を筆頭に県内の産業全体は大打撃。そんな状況を救ってくれたのは、多くの地元のお取引先やお客様でした。地域に生かされたおかげで醸造を続けることができたのです。

 

(※1) 宮崎県内飲食店限定商品(小売りはしていません)。

 

機械オペレーターの経験から品質管理責任者へ。 ブルワーになって知ったのがお酒のおもしろさでした。

 

僕は延岡市出身ですが高校卒業後に県外で就職して、ひでじビールに入社する前は、千葉県の重機械メーカーに勤めていました。いずれは地元に戻りたいと思っていたところに醸造スタッフの募集を見つけたんです。僕はあまりお酒を飲まなかったし、ビールも得意な方ではなくて、実はひでじビールも飲んだことがありませんでした(笑)。

 

ですが、ブルワーという珍しい技術職に興味があったのと、機械の操作や管理、メンテナンスを行う機械オペレーターのスキルが現場の即戦力になりそうだと思ったんです。そして2014年2月に僕を含めて2名が醸造チームに加わりました。

 

入社前に8種類のビールを送ってもらい、日向夏や金柑など初めてフルーツビールも飲みましたが、ビールのバリエーションの豊かさと飲みやすさに驚きましたね。すごくおいしくて、ブルワーになるのがますます楽しみに。醸造設備を扱うのはもちろん初めてでしたが、仕込み作業から酵母の培養、商品の品質管理まで新しいことを学ぶのは楽しかったです。ブルワーになってから日本酒やワインなどお酒の世界の奥深さを知りましたが、食事との組み合わせで楽しみが無限に広がるのも魅力ですよね。クラフトビール業界はブルワリー同士の交流もさかんなので、他社の先輩ブルワーから学ぶことも多くて、それが励みにもなっています。

 

 

2017年から、品質管理責任者として醸造業務をこなしつつ、HACCAP(※2)認証を受けるためのプラン作成やモニタリング基準の設定など、導入に向けた取り組みを進めていました。生まれ変わったひでじビールでは、皆さんにおいしいビールを心から楽しんで飲んでもらうために、安心・安全なビール造りに努めています。

 

それが世界的に認められたのが、宮崎県産の和栗を使ったインペリアルスタウト「栗黒」ですね。アメリカ輸出用として和を表現した個性的なビールですが、2017年にイギリスで開催されたビールの審査会「ワールド・ビア・アワード」で世界一を受賞したんです。ひでじビールの「Think Global,Brew Local.」がひとつの形になった瞬間でしたね。

 

これからも商品の安全性を大前提としながら、今後も他では作れない日本らしさ、宮崎の風土を感じられるビール造りを続けていきたいと思います。地域の皆さんと一緒に。

 

(※2) 国際的な食品衛生管理規格。「Hazard(危害)」「Analysis(分析)」「Critical(重要)」「Control(管理)」「Point(点)」を合わせた言葉の略語で、2018年の食品衛生法改正によって国内企業で導入が進められている。

 

取材・文/山口 紗佳

鈴木オーナー

お店でしか飲めなかった樽生を自宅で気軽に味わえるのが醍醐味ですよね。「太陽のラガー」はどんな料理と合う幅の広さが魅力ですし、かぼすや日向夏のような柑橘フルーツのビールはデザートとの相性もいいです。ぜひ家庭料理と一緒に楽しんでください!

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Monterey Brewing

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福島のおいしいビールをお届けすることが一番の恩返しになるから、技術を磨き続ける。

みちのく福島路ビールは、福島市郊外の丘陵にあるアンナガーデン内に1997年に創業された家族経営の醸造所。吾妻山系を臨むうつくしいガーデン内で、厳選された原料と地元の果物を使ってつくられるビールにはファンも多くいます。現在醸造長を務める吉田真二さんは、2009年にホテルの仕事からビール醸造の世界に飛び込みました。醸造への不安や、東日本大震災によって何度も壁に当たりますが、その度に手を差し伸べてくれたお客さんやブルワー仲間、家族がいました。多くの人たちとの助け合いの輪が、今のみちのく福島路ビールのおいしさにつながっています。

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もっと自由に!もっと面白く!もっと気軽に!クラフトビールを身近なものにしたい

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VECTOR BREWING

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ビール文化が根づいたカナダのように、日本でもおいしいビールを気軽に

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NORTH ISLAD BEER(北海道)多賀谷 壮

北海道江別市

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