ビールの縁側

泉佐野ブルーイングのはなし

関空から世界に羽ばたく理想のビールを。
経験を積んだ今の自分なら、ここで実現できるかもしれない。

大阪府の南部、泉南地域に位置する泉佐野市は、古くから商業、工業、農業、漁業などの産業に支えられた街。1994年に沖合の人工島に「関西国際空港」が開業してからは西日本の空の玄関口としての役割も担っています。関西空港に合わせて対岸に開発された「りんくうタウン」にはホテルや飲食店、ショッピングモールや公園、病院、学校もあり、年間を通して多くの観光客が訪れる副都心。2020年7月、関空の空港コードをブランド名「KIX BEER」に冠して、泉佐野から世界へ飛び立つイメージで開業したのが「泉佐野ブルーイング」。醸造責任者の志村智弘さんにお話を聞きました。

スタッフとしてのビール製造から「醸造家」としてのビール造りを目指す

誤解を与えるかも知れませんが、私は一口目の感動はそこまで求めてないんです。

 

最初のインパクトよりも、グラスに残ったビールが少なくなったときに「もうちょっと飲みたい」と思わせるもの。そして気づけば何杯も何杯も飲み続けている。KIX BEERが目指すのはそんなビールです。「麦の酒」と書く飲み物ですから麦が主役。

 

麦の風味を大切にしています。

 

15年以上に渡ってビール造りをしてきましたが、中でも得意とするのがジャーマンスタイルのビールです。ブルワー人生のスタートが、かつて広島県にあった「三次ベッケンビール」(※1)で造っていたジャーマンスタイルでしたから。大阪で料理人だった私が妻の故郷の島根県に近い広島県三次市に移住して、働き口を探していたところに見つけたのが三次ベッケンビールを醸造する「三次麦酒」でした。

 

最初はレストランのホールスタッフで、2003年頃から醸造部門へ。

 

ところが引継ぎ期間が短くて、前任者から教わったのはバルブの開閉など作業としてのビール造りのみ。醸造発酵の仕組みやメカニズムなんてチンプンカンプンでした。当然、機械操作だけじゃおいしいビールは造れません。ですが、当時の日本には参考にできる専門書や情報がほとんどなくて、周りに頼れる人もいません。そこで中国地ビール協議会(※2)や老舗醸造所の「大山Gビール」(鳥取県)や「松江ビアへるん」(島根県)を頼って、なんとか一通りの知識や技術を身につけていきました。

 

自分のビールに自信が持てるようになったのは、審査会で賞をとってから。

 

あるとき冷却にやたら時間がかかることが気になって調べてみると、ビールを通しながら冷やす熱交換器が詰まっていることが判明したんです。原因は長年の洗浄不足でした。すぐに熱交換機を分解して、時間をかけて洗い上げるとビールの味が驚くほどクリアに! 

 

せっかくいいものを仕込んでも衛生管理の甘さで味が落ちていたんです。

 

私はすべての醸造設備や器具を徹底的に分解洗浄、消毒をして、1年ぐらいかけてこれまでの定番ビールのレシピを見直しました。この件で品質維持や衛生管理には特に注意深くなりました。

 

その結果、2005年に初めて出品した審査会でデュンケルとピルスナーが入賞! 

 

これをきっかけにビールの売上げはどんどん伸びましたが、直営レストランの赤字が経営を圧迫して残念ながら2009年に閉業しました。なんとか醸造事業だけでも続けたかったんですが……。その悔しさを汲んでタンクにあった在庫のビールを代わりに販売してくださったのが、「サンクトガーレン」の岩本社長です。そのご縁からサンクトガーレンに入社して、神奈川で2年間ビール造りを続けることができました。

 

(※1) 広島県三次市で1998年~2009年7月まで営業していたレストラン併設のブルワリー。「ベッケン」はドイツ語で「盆地」という意味。

 

(※2) 1998年に広島国税局管内におけるビールの品質向上を目指して、中国地方のクラフトビールメーカーが発足した組織。ビール製造の知識や技術の習得および向上、酒類業界や商品に関する知識の習得・情報交換を目的として活動している。

 

「飲みやすすぎて、つい飲み過ぎてしまう」 そう言っていただけるのがうれしいですね。

家族の希望もあっていずれ地元に戻りたいと考えていたところ、ブルワー仲間の紹介で働くことになったのが広島県廿日市市の「宮島ビール」です。ただ、私が醸造長に就いた2012年当時はまだ自社工場がなくて、自社ブランドのビールを新潟県や山口県の醸造所で委託醸造したり、私が県外の醸造所に出向いて仕込んだりしていました。念願だった自社工場を2018年に宮島島内に設立したのを機に宮島ブルワリーはリニューアル。その立ち上げ準備に取り組む中で、次のステップに導いてくれたのが大阪府の「ONE’s BREWERY」でした。

 

「ONE’s BREWERY」の運営母体は、バルブや流体制御装置の製造販売を手掛けるメーカーで醸造プラントの輸入やブルワリーの開業支援もしています。私は「ONE’s BREWERY」で若手ブルワーの醸造指導を務めながら、醸造設備のセールスエンジニアや醸造所の開業コンサルティングも取り組むことになりました。そのおかげで、これまでより広い視野でビールに携わることができたと思います。そして、その仕事を通じてたどり着いたのが、今の「泉佐野ブルーイング」なんです。

 

当初は開業サポートの一環として、醸造の「監修」というアドバイザー的な立場でしたが、気づけばKIX BEERの醸造責任者になっていました(笑)。これまでの私の働きぶりを見ていた社長(※3)は最初からヘッドブルワーとして迎えるつもりだったようです。私自身も、これまで数々のブルワリーで積み重ねてきた醸造経験を活かして、自分の造りたいビールを自由に造れる土壌に魅力を感じました。経験を積んできた今の自分なら、理想のビール造りがここで実現できるかもしれないと思って決断したんです。

 

だからKIX BEERでは、私がこだわってきた「飲みやすさ」が欠かせません。

 

定番商品のペールエール、アンバーエール、ヴァイツェンはどれもアルコール度数5%弱で、ホップの香りとモルトの風味のバランスが良いもの。オーソドックスなスタイルで尖ったものではないかもしれませんが、つまり裏返せばずっと飲み続けられるビールということです。季節限定の準定番として、ヴァイツェンボックやデュンケル、ウィートラガーも出しています。

 

関空のお膝元ですから、デザイン全般も関空のイメージで統一しています。

 

空港で発着情報が表示されるフリップパネルを模したロゴに、瓶ビールのラベルやボトルネックにも滑走路や飛び立つ機体を描いて、関空を利用する人や地元の方に親しんでいただけるラベルになっているんです。目を引く特徴的なデザインですよね。

 

コロナ禍で関空利用者が減った今はインバウンドが見込めませんが、泉佐野市内や泉南地域から買いに来てくださる方が多いですね。ありがたいことだと思います。リピーターのお客様に言わせるとKIX BEERは「飲みやすすぎて、つい飲み過ぎてしまう」そうで(笑)。

 

そう言っていただけるのはうれしいですね。まさにそこを追求してきましたから。

 

「また飲みたい、次も飲みたい」とリピートしてもらえることほど大きな喜びはないです。

 

(※3)泉佐野ブルーイングを運営するGrandeLimite株式会社の代表取締役、許校沿氏

 

取材・文/山口 紗佳

鈴木オーナー

品質には絶対の自信を持っています。
開業後まもなくで国際審査会「インターナショナル・ビアカップ2020」で「KIX BEER ヴァイツェンボック」が銀賞、「KIX BEER デュンケル」が銅賞。「ジャパン・グレートビア・アワーズ2021」では「KIX BEER デュンケル」と「KIX BEER アンバーエール」が銅賞を受賞しました。どのビールも飲みやすいから、3Lなんてすぐなくなっちゃうと思います(笑)。

OTHER BREWERIES

その他のブルワリー

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Monterey Brewing

長野県塩尻市

福島のおいしいビールをお届けすることが一番の恩返しになるから、技術を磨き続ける。

みちのく福島路ビールは、福島市郊外の丘陵にあるアンナガーデン内に1997年に創業された家族経営の醸造所。吾妻山系を臨むうつくしいガーデン内で、厳選された原料と地元の果物を使ってつくられるビールにはファンも多くいます。現在醸造長を務める吉田真二さんは、2009年にホテルの仕事からビール醸造の世界に飛び込みました。醸造への不安や、東日本大震災によって何度も壁に当たりますが、その度に手を差し伸べてくれたお客さんやブルワー仲間、家族がいました。多くの人たちとの助け合いの輪が、今のみちのく福島路ビールのおいしさにつながっています。

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福島路ビール(福島県)吉田 真二

福島県福島市

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カルテットブルーイング(長野県)椎名 将

長野県軽井沢町

もっと自由に!もっと面白く!もっと気軽に!クラフトビールを身近なものにしたい

「Vector Brewing」がある東京都台東区浅草橋は、下町の情緒が残るモノづくりの町。2016年に新宿で誕生した醸造所は、2017年に醸造の拠点を浅草橋に移し、常に“面白い”ビールを発信しています。それはクラフトビールをもっと自由で気軽に楽しんでもらうため。ユニークなデザインとネーミング、豊富なラインナップは初心者でも手に取りやく、クラフトビールファンをジワジワと増やしています。元銀行員でラガーマンだという異色の経歴をお持ちのブルワー三木敬介さんにお話を伺いました。

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VECTOR BREWING

東京都大田区

ビール文化が根づいたカナダのように、日本でもおいしいビールを気軽に

北海道の中部、石狩平野の中央にある江別市は、国産小麦の代表格として知られる「ハルユタカ」が生まれた土地。パンや麵、スイーツ、ビール醸造に適した国産品種がいくつも誕生した日本有数の小麦の産地です。札幌市の中心部から近く、空港や港湾へのアクセスも良いことから、生活に便利なベッドタウンでもあります。その江別自慢の「ハルユタカ」を使ってビールを醸造しているのが、2009年から江別市で醸造をしている「NORTH ISLAND BEER」。元ヘッドブルワーで現在は取締役工場長を務める多賀谷壮さんにお話を聞きました。

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NORTH ISLAD BEER(北海道)多賀谷 壮

北海道江別市

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