ビールの縁側

安芸乃国酒造(広島県)のはなし

安芸太田町の未来を醸造するステージへ
タッグを組んだ新章「覆面麦酒職人」の幕開けです。

※2025年8月ビール事業終了に伴い、現在は商品販売を行っておりません
広島県山県郡安芸太田(あおきおおた)町。
広島県西部、西中国山地の中央に位置する安芸太田町には、全長16㎞におよぶ大渓谷「三段峡」をはじめとして、「日本の棚田百選」に選ばれた「井仁(いに)の棚田」、夏には蛍が飛び交う「温井ダム」、本州最南端のスキー場がある「恐羅漢山(おそらかんざん)」など、中国山地を代表する景勝地が数多くあります。四季折々の自然に恵まれ、豊かな観光資源を有する安芸太田町で2020年に誕生したのが「安芸乃国酒造」。代表の“オソラー・カーン ”こと、長戸結沙さんに話を聞きました。

西日本屈指の景勝地と豊かな農作物。 自然に恵まれながらも知名度の低い安芸太田町

 

定番4種類の商品名は安芸太田町を代表する景勝地。それぞれ安芸太田の「四季」をイメージして、醸造長の道菅宗之とレシピを考えました。

 

「井仁の棚田」は桜やチューリップが咲き乱れる春がテーマで、井仁産の糖度の高いカボチャを使ったパンプキンエール。

 

「温井ダム」は黒部ダムに次ぐ日本第2位の高さ156mを誇り、大迫力の放流が見られる観光スポット。深い緑に包まれて、ゆらりと蛍が飛び交う幻想的な夏をイメージしています。紫芋を使ったハイアルコールでパンチのある味が特徴のフリースタイルエールです。

 

一番人気の「三段峡」のテーマは秋。三段峡は断崖絶壁に囲まれた峡内を渡し舟から眺めることができる西日本屈指の秘境で、紅葉の名所として知られています。緑豊かな春や涼しい夏もおすすめですが、鮮やかな赤や黄色に色づいた秋の美しさは格別。町内産の菊芋を使って柑橘系の香りを感じながらもすっきりと飲みやすいゴールデンエールに仕上げています。

 

 

「恐羅漢」は冬。雪をイメージして、副原料に地元の米を使った口当たりのやさしいベルジャンホワイトエールです。広島県最高峰の恐羅漢山は、中国地方では珍しい天然雪が降る場所で、シーズンになると本州最南端のスキー場としてウインタースポーツを楽しむ人々でにぎわうんです。

 

瓶に観光名所が書いてあるとイメージしやすいし、旅行のお土産や地域の名産品として喜ばれるでしょう?ラベルはあえて懐かしい雰囲気が漂うレトロ調にして、この地に足を運んでみたいと思ってもらえるデザインにしました。

 

ふるさとの名物として町の人たちが胸を張って贈り物にできるもの。

 

そして、手にした人に「安芸太田に行ってみたい」「この景色を見てもらいたい」と思ってもらうこと。安芸太田町らしさを取り入れたオリジナルビールでこの町を盛り上げたい。――それが安芸乃国酒造の目指すところで、“覆面鉄板焼職人”から“覆面麦酒職人”に転身した僕、オソラー・カーンのネクストステージです(笑)。

 

 

もうお分かりのように、オソラー・カーンが生まれたのは恐羅漢。

 

僕は恐羅漢山にあるスキー場やキャンプ場を経営する施設で10年間ほど働いていました。冬はゲレンデのレストランで焼きそばやお好み焼きなどの鉄板焼き料理を、夏は移動販売車で各地を回ってハンバーガーを出していたんです。

 

そのスキー場でお客様が結婚式を挙げることになり、参列者の仮装に合わせて従業員も仮装することにしました。そこで、プロレスファンの僕が持っていたマスクを鉄板焼きチームの5人で被ることに。ゲレンデでもマスクのままで営業していたら、思いのほかお客様にウケまして(笑)。SNSで拡散されたり、写真撮影を求められたりするうちに、気づけばマスクマンで仕事をしていました。これがリングネーム「覆面鉄板焼職人 オソラー・カーン」の誕生です(笑)。

 

二人でお世話になった安芸太田町への恩返し、ですね。

 

ビールに結びついたのは、移動販売をしていたときですね。お客様から「地ビールは売ってないの?」って聞かれることがたびたびあったんです。考えてみれば山間部の安芸太田エリアには地元のお酒がありません。ビールは日本酒やワインと比べて、その土地の個性を表現しやすいですよね。安芸太田町の豊富な農作物をビールに取り入れることができるので、特産品のPRになりますし、商品にならない規格外農作物の二次活用もできます。手間ひまかけて作物を育てた生産者の手助けにもなる。ビールなら鉄板焼きとの相性も抜群です。

 

それにビールは楽しい場所と笑顔が似合うお酒ですから、安芸太田町に古くから伝わるお祭りや行事で地元のビールを飲み交わせば、地域の絆も深まるし、町の活性化にもつながるんじゃないかって、一気に「安芸太田産ビール」のイメージが膨らみました。

 

実は、僕の出身は広島市。安芸太田町ではないんです。

 

安芸太田町が第二の故郷になったのは、スキー場の住み込みのアルバイトで地域住人のあたたかさや人情に触れたから。困った人を放っておけない助け合いや思いやりの精神、やさしさに心を打たれて、この町の役に立つ仕事に携わりたいと思うようになったんです。安芸太田町が抱える一番の問題は人口減少と高齢化。県内で最も少子高齢化が進んでいる地域です。

 

(※1)。観光や特産品をフックにして、この町に興味を持つ人が増えたら、地域の活性化につながります。地域密着型のビールならきっと後押しができる。

 

 

こうして商売としてビールが気になり始めた2017年の夏、島根県のイベント出店した際に偶然隣の移動販売車で営業していたのが島根県江津市のマイクロブルワリー「石見麦酒」でした。そこで小規模な設備で造れて移動販売もできることを知って、すぐに造り方や設備のお話を聞きに足を運びました。

 

安芸太田町出身の醸造長とは、キッチンカー仲間として出会ったんです。

 

今後の商売や町のことについて話すうちに意気投合して、タッグを組んで安芸太田町を盛り上げるためにブルワリーの起業を決意。タッグチームになった覆面麦酒職人 オソラー・カーン新章のスタートです(笑)。

 

醸造所の場所は安芸太田町の玄関口。多くの観光客が立ち寄る道の駅の敷地内に、2019年3月に安芸乃国酒造株式会社を設立しました。何回か石見麦酒で研修を受け、醸造長はさまざまな講習やセミナーで醸造の勉強も重ねました。

 

資金調達に苦労しながらも、なんとか2020年2月に酒造免許を取れたものの、新型コロナウイルス感染症の世界的流行の真っただ中。観光客も激減して先行き不安でしたが、町の人たちが応援してくれるおかげでなんとか頑張れています。

 

最近では名産のにんにくを使ったビールを仕込んでいますが、県内でも知られていない地元名産の「祇園坊柿」など、使ってみたい食材はまだまだあります。将来的にはラインナップを増やしてラガースタイルにも挑戦したいですね。

 

(※1)平成27年6月末現在での高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は47.57%、平成22年国勢調査における人口減少率は11.9%と、広島県内で最も少子高齢化、人口減少が顕著に表れている自治体。安芸太田町公式ホームページ「安芸太田町の人口情報」によると、令和2年9月末時点の統計では高齢化率は51.10%と、さらに高齢化が進んでいる。

 

取材・文/山口 紗佳

※2025年8月ビール事業終了に伴い、現在は商品販売を行っておりません

鈴木オーナー

樽生のビールは醸造所併設のパブでしか飲めないので貴重な機会です。安芸太田産ビールで安芸太田町の良さを噛みしめてください。そしていつかこの地のきれいな空気と景色も一緒に味わってみてください。皆様のお越しを心から歓迎します。

OTHER BREWERIES

その他のブルワリー

滋味豊かな穀物の恵みをまるごと感じられる仕事。
ビールも畑から育てるという発想で。

池袋駅から特急で1時間あまり、東武東上線の終点である小川駅。埼玉県のほぼ中央に位置する比企郡小川町は、有機農業が盛んな地域です。
近年は「小川町オーガニックフェス」を開催するなど、街ぐるみで有機農業に取り組むオーガニックタウンとして知られています。のどかな田園地帯が広がり、里山の原風景が残る小川町で自家栽培の大麦や小麦、ライ麦などの穀物でビールを醸造しているのが「麦雑穀工房マイクロブルワリー」です。オーナーブルワーを務める鈴木等さんにお話を聞きました。

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麦雑穀工房

埼玉県比企郡小川町

醸造っておもしろい!
ワイン醸造家×木彫のまち「井波」のビール造り

富山県西部に位置する南砺市井波地区。八乙女山の麓に広がるこの地は、室町時代に建立された瑞泉寺の門前町として栄え、今も町のあちこちでノミの音が響く「木彫り彫刻の町」として知られています。しっとりとした石畳の通りには、職人たちの工房や歴史的な建造物が軒を連ね、ものづくりの精神が深く息づいています。そんな職人の町に、新たな醸造所「NAT.BREW」が2022年12月にプレオープン、2023年2月からビールの提供を開始しました。ヘッドブルワーの望月俊祐さんにお話を聞きました。

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NAT.BREW

富山県南砺市

日本産ホップとフレッシュホップビール、福島県田村市で循環の輪を広げる。

阿武隈高原の深い森と里山に抱かれた福島・田村市都路町。標高約620mの涼やかな場所にある自然豊かな地域です。この地に広がる「グリーンパーク都路」は、オートキャンプ場やディスクゴルフ、花畑、展望台などが備えられた複合施設。2020年11月、東日本大震災から休眠状態だったこの施設を改修して、ホップ栽培から手かげる「ホップガーデンブルワリー」とロッジ施設がオープンしました。運営元のホップジャパン代表の本間誠さんにお話を聞きました。

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ホップガーデンブルワリー

福島県田村市

「新潟らしさ」を探る日々の業務に飽きないのは、壁を乗り越えるたびに“味”という結果が返ってくるから

※2025年6月ビール製造事業終了に伴い、現在は商品販売を行っておりません
新潟県北東部にあり、新潟県と福島県、山形県にまたがる飯豊山地を起源とする胎内川流域に沿って広がる胎内市は、豊富な湧水を利用したお米や農作物、チューリップの栽培で知られる自然豊かな町です。胎内川のほとりにある1994年創業の「胎内高原ビール」では、胎内川に流れ込む飯豊連峰の雪解け水を仕込みに使っています。素材本来の特徴を引き出すのに適した清らかな超軟水を使ったビールは、毎日飲んでも飽きのこないクリアな味わいが特徴。

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胎内高原ビール ※販売終了※

新潟県胎内市

ビールの声に耳を澄ませて。
チェコ人醸造家の人生を映す、ごまかしの効かない一杯

富山県の県庁所在地、富山市北部に位置する港町・岩瀬。江戸から明治にかけて日本海を往来した北前船の寄港地として栄え、当時の面影を残す廻船問屋が軒を連ねる古い町並みが大切に保存されています。歴史が息づく地にある「KOBO Brewery」は、2017年10月にその歩みを始めました。チェコの伝統的な製法を守り、妥協のないビールを造るチェコ出身醸造家のコティネック・ジリさんにお話を聞きました。

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KOBO Brewery

富山県富山市

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