DevilCraft Brewery(東京都)のはなし
アメリカンビールとシカゴピザ、チャレンジを繰り返したから新しいステージにいる
DevilCraft Brewery
東京都品川区
2015年に大井町と大崎の中間にある工場地区にブルワリーを立ち上げた「DevilCraft Brewery(デビルクラフト ブルワリー)」。はじまりは3人のアメリカ人が2011年7月に神田でオープンしたピザとアメリカンビールのお店でした。当時樽生で飲める機会が少なかったアメリカのビールと厚みのあるシカゴスタイルのピザが絶大な人気を集め、今では浜松町、五反田、自由が丘にも直営店を構える人気店ですが、自家醸造は彼らの長年の夢。創業者でオーナーのMike Grantさんと、2018年からブルワーを務める今村淳一さんにお話を聞きました。
ビジネスは早々に軌道に乗ったが、自家醸造への道のりは長かった
Mike:僕たちもシカゴピザ(※1)がこんなにヒットするとは夢にも思っていませんでした。生地が分厚いディープディッシュピザは焼き上がるまでにおよそ30分、慣れない頃は1時間もかかった料理で、決して効率が良いとは言えません。時間がかかりすぎるので、当時はレギュラー商品としてシカゴピザを提供するお店はありませんでした。だからこそ冒険することにしたんです。やってないことなら僕たちでやってみよう!って。
これが予想を上回る大ヒットに。
口コミで人気に火がついて、「DevilCraft神田店」は2011年7月オープンからわずか3カ月で初期投資を回収できるほどに黒字化できたんです。インパクト抜群のシカゴピザとバリエーション豊富なアメリカのビール。どちらも高い人気を集めた相乗効果でお店はいつも満席でした。10年前当時の日本では、クラフトビールと一緒にしっかりした料理が楽しめる店が少なかったせいもあるでしょう。僕と共同オーナーのJason Koehler、John Chambersの3人とも、飲食事業は初めての経験でしたが、ビジネスが早々に軌道に乗ったおかげで自家醸造への夢が膨らみました。僕たちが夢に描くゴールは、オリジナルビールをつくること。神田店は第一歩だったんです。
カリフォルニア出身の僕が、ALT(※2)の赴任先として日本を選んだ一番の理由も冒険心から。1991年に来日して京都市で英語を教えていました。そこで日本のクラフトビールにも出合ったんです。これはうまい!と思ってビールのイベントにもよく参加していました。そこで醸造に興味をもつようになって、アメリカでホームブルーイングにチャレンジしてみたんです。自家醸造が認められている母国では、大手のホームブルーショップから鮮度の良いホップが手に入ります。このホームブルーがもう最高!(笑)。すっかりビール造りの虜になって、あれこれ研究しながら経験を積んでいました。JohnとJasonに出会ったのはその頃、2009年に日本のビール好きのコミュニティで意気投合して、話すうちに「いつか自分たちのビールをつくりたい」という夢を抱くようになりました。二人もホームブリューの経験があって、中でもJasonは会津麦酒(2008年に閉店)でのブルワー経験やアメリカのビール醸造の名門校、シーベル醸造学研究所で学んだこともあります。いつも3人でブルワリーのアイディアを話し合っていました。
当初はビール製造だけのつもりで土地の安い田舎を予定していましたが、製造免許をもらうためにはビールの販売計画も必要なんです。そこで、料理とビールを提供するブルーパブからスタートすることに計画変更。そうなると駅が近い都市部がいい。人通りの多い路面店という好都合の物件に決めて、自社醸造の準備段階として、まずはアメリカから仕入れたビールとシカゴピザを売る飲食店からDevilCraftが歩み出しました。
ところが、神田店は構造上の理由で重量のある醸造設備が置けないことがわかりました。そこで、2013年にいずれ醸造設備を設ける予定の2店舗目として、神田店よりフロア面積が広いDevilCraft浜松町店を2013年にオープン。浜松町店も当初から予想以上に好調で、十分な利益を上げる店になりました。そうなると客席を潰して醸造設備を置くことがもったいないように思えてきたんです。僕たちははやる気持ちを抑えて、集客力のある神田店と浜松町店で十分な事業資金を貯めることにして、改めてブルワリーの候補地を探しました。そして見つけたのがここ、品川区の京浜工業地帯にあるプレス工場の跡地でした。
(※1) アメリカのイリノイ州シカゴを発祥とするピザの総称。高さのある生地を器にして、中に具をたっぷり詰め込んで焼き上げるキッシュのような厚みのピザ。
(※2) Assistant Language Teacherの略。外国語を母国語とする外国語指導助手。
「ゴールデンエイジ」にいる日本のクラフトビール市場
Mike:醸造設備の税関手続きに苦戦しながらも、ようやく2015年9月に念願の自社工場「DevilCraft Brewery」を設立しました。DevilCraft神田店から4年越しで、自分たちのビール造りが始まったんです。DevilCraftのビールで大事なのはドリンカビリティ、飲みやすさです。角がなくまろやかで、何杯でもずっと飲み続けられるバランスの良さを大切にしています。そして3人のルーツであるアメリカンスタイルや、現地のブルワリーからインスピレーションを得たもの。基本的にレシピは3人でディスカッションして決めます。
今村:僕は2018年に神田店のホールスタッフとして入って4年目です。
デビルクラフトのビールはもちろん、アメリカンカルチャーの世界観も好きで、スタッフの雰囲気も良かったこのお店で働きたいと思ったんです。そのうち神田店のスタッフからブルワリー見学に誘われて、気づけば週1~2回、神田店のホールとかけもちで醸造を手伝っていました(笑)。
ビール造りはどの工程をとってもおもしろくて全然飽きません。
2020年は新型コロナ対策のために1か月半ほど醸造がストップしていたんですが、仕込みを再開したらうれしくてうれしくて! 醸造ルームいっぱいに広がる麦汁の甘い香りやホップの爽やかな香りを感じたら喜びがこみ上げてきて、改めてビール造りが好きなんだと実感しています(笑)
Mike:2020年に人数限定でオープンブルワリーを開催したときは、DevilCraftファンの愛情を感じてとてもうれしかったですね。この10年で日本のクラフトビール市場は急成長を遂げ、クオリティは各段にアップしました。今や把握できないほどブルワリーの数も増えて進化のスピードも速い。ブルワリー同士で互いに励まし合って情報交換が活発なので、歩み出したばかりのブルワリーでも短期間で見違えるほど品質に磨きがかかります。
今の日本は、ビールのゴールデンエイジといえるでしょうね。
今村:2020年5月にボトル販売を始めたら、これまでInstagramでお店のグラスばかりヒットしていたのが、家でDevilCraftのボトルを飲む投稿も増えてきて。遠くに住む方にもDevilCraftを気に入ってもらえるのはうれしいですね。アパレルやグッズなど、ビール以外のアプローチでもデビルクラフトのブランドカルチャーを広めたいです。
取材・文/山口 紗佳
東京のタップルームに来ることができない方でもベストコンディションのビールを楽しめるところがいいですね。今後は地元の野菜や果物、エディブルフラワー(食用花)なども積極的に取り入れて、地域との連携を深めたいと思っています。
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