Farmer’s Brewery 穂波(島根県)のはなし
有機農家が畑から直送!オーガニックの紫芋や安納芋で「明日の活力」になるビールを。
Farmer's Brewery 穂波
島根県浜田市
島根県の西部、日本海に面した石見地方の中心都市・浜田市。山陰随一の水揚げ量を誇る水産の街であると同時に、中国山地の豊かな山や清らかな川に恵まれ、おいしい食材と「石見神楽」などの伝統文化が息づく土地です。2018年にオープンした「Farmer’s Brewery 穂波」は山陰浜田港に併設する「はまだお魚市場」内にあり、有機野菜を手がける「三島ファーム」が運営しています。浜田市の農家だからこそ造れるビールの魅力について、醸造担当の安達豊さんにお話を聞きました。
その土地の恵みをいくらでも!農家だからこそできること

ビール造りって、「これで完成!」っていうのがないんですよ。
新しいホップや新しい酵母がどんどん世の中に出てきて、材料も技術もアップデートしていく。刺激的なビールを飲んで、「これどうやって造るんですか?」って聞いて、実際に試して「これはいいぞ!」って思えば定番ビールのレシピも大幅に変わります。
だいたい3年に1〜2回くらいはそういう変化がありました。だから、定期的にビールを飲みに広島や福岡、関西に遠征してますね。まあ、「修行」って言いながらも半分くらいは純粋に飲みに行きたいんですけどね(笑)。
僕がビール造りで大事にしているのは、「飲んだら元気になれるビール」です。
仕事が終わった後とか、気分を切り替えたいときに飲んでもらって、「さぁ明日も頑張ろう!」って思ってもらえるような。そんな、明日の活力になる一杯になれたらいいなと思って造っています。

Farmer’s Brewery 穂波の母体は、「三島ファーム」という有機野菜を栽培している農場。小松菜やほうれん草といった葉物野菜をメインとして、農薬や化学肥料を使わずに育てています。この「農家がつくるビール」というのが、僕らにとって一番の強みですね。地域の新鮮な素材を使えること。
それがオリジナリティだと思っています。
例えば、定番ビールの「HONAMI RED」。
これは自社栽培の紫芋を使ってるんですが、「農家じゃないと無理だよね」っていうくらい大量の紫芋を使ってるんです。紫芋が持つきれいな赤色をしっかり出す、というところに主眼を置いてレシピを設計しました。芋のでんぷんを糖分に変えて発酵させるんですが、紫芋の甘みや風味が味わえるオリジナルエールです。「HONAMI WHITE」というヴァイツェンには安納芋を使っています。糖度の高い安納芋とヴァイツェン特有の甘い香りが調和するんじゃないかと考えて。作物をビールに使うための加工も自分たちでやります。基本的に蒸したり、ペースト状にしたりして使ってますね。

培った“引き出し”の多さで素材の「らしさ」を表現
定番ビールは今、8種類ぐらい。
定番以外に年に2、3種類は季節限定を造っています。生姜を使ったブラウンエールや、いちごのセゾンなんかもありますよ。最近だと梨を使ったホワイトエールや、みかんを使ったペールエールですね。副原料は自社栽培以外に地域の協力を得て、なるべく浜田市産、島根県内のものを使うようにしています。でも野菜や果物を使うのって、結構難しいんですよ。
特に苦労したのは梨といちごですね。
柑橘みたいに香りが強いものは特徴が出やすいんですけど、梨やいちごは水分量が多くて香りや甘みは穏やかでしょう?うちは香料を一切使わないので、香りの弱い素材の風味を感じてもらうのがすごく難しい。そのまま使うと、どうしてもぼんやりしてしまうんです。だから、例えばコリアンダーのようなスパイスを使う。するとビール全体の輪郭がはっきりして、より「和梨っぽさ」を感じやすくなるんです。いちごの場合はコンポートにして(煮詰めて)から使います。

酵母の選定も大事です。
セゾン酵母が持つスパイシーな香りと、ホップの組み合わせ。例えばギャラクシーとかモザイクとか、酵母とそういうホップを掛け合わせることで、いちごの「ベリーっぽさ」を引き立てるんです。
今までで一番ユニークだった副原料は……「うどん」ですかね(笑)。
うどんの麺です。道の駅とのコラボで「うどんを製麺するときに出る切れ端を活用したい」とオファーがあって。ただ、うどんの切れ端だけだと、どうにも「うどん感」が弱くて。難しかったんですが、最終的には出汁も使って、全体としてうどんの雰囲気を感じられるように仕上げました。10年以上ビール醸造をやってきたので、「これをこうやって使えば、こんなふうに感じられやすい」っていう醸造の「引き出し」をいっぱい積んできたと思います。新しいことにチャレンジするときは、その引き出しを開けながら全体のバランスを取っていく。
「石見式」創業期から積み上げた経験と、学び続ける姿勢
僕自身はここ浜田市の出身なんです。

ビール造りを始めたのは、今から10年ほど前。「クラフトビール」って言葉をよく聞くようになった頃で、調べてみたら「個人で起業してビール会社が作れる」ってあるじゃないですか。面白そうだと思っていたとき、ちょうど隣の江津市で「石見麦酒」を立ち上げようとしていた山口さん(※石見麦酒代表)と出会って。そこで「一緒にやらないか」と誘ってもらって、石見麦酒の創業から参加することになりました。それまではビールが好きとは言っても、こんなに種類があって、個性があるものだとは知らなかった。
石見麦酒のような小規模醸造のいいところは、とにかく醸造回数が多いこと。
トライアンドエラーをこまめに何回もできる。そこで「この方法なら上達してきたな」っていう実感を得てきました。それに、石見麦酒つながりで、ブルワー同士の情報共有がすごく活発なんです。他の醸造所から相談に乗ることもあれば、「こうやったら良くなりましたよ」って逆に教えてもらうこともたくさんあって。お互いに醸造に関する知見を広げていった感じですね。
三島ファームがビール事業を始めたのは2018年です。
石見麦酒がいろいろなブルワリーのサポートやコンサルティングをしていた流れで、浜田市の三島ファームがビール部門を立ち上げたい、と。それで僕が役員として加わることになったんです。5年間くらいは石見麦酒の従業員でありながら、三島ファームの取締役醸造長、という2足の草鞋で働いていました。隣り合った自治体同士で一緒に品質を上げたり、材料を共同購入したりしながら、ビール業界全体を盛り上げていこうというスタンスだったんです。石見麦酒で3、4年経験を積んだ後だったので、三島ファームでの立ち上げは大きなトラブルもなく比較的スムーズでしたね。

Farmer’s Brewery 穂波のビールは、醸造所がある観光商業施設(おさかな市場)と、浜田駅前のお店で樽生を飲むことができます。地元の評判も良くて、「こういうビールもおもしろいね!」って楽しんでもらってます。「地元でやってるんだったら応援せんといけんね」なんて言ってもらえると、やっぱりうれしいですよね。初めてクラフトビールを飲む方で、苦味が苦手な方にはいちごを使ったトロピカルなビールがおすすめ。逆に、年配の方で「普段飲んでるのに近いやつがいい」って言われることも結構多いんですよ(笑)。クセのないピルスナーが好きな方には「ゴールデン」というペールエールをお出しします。
これだけ醸造所が増えた中で、生き残るためにはお客さんに選んでもらえないといけない。そのためにも、「三島ファームじゃないと飲めない」っていう、僕らならではの個性的な商品を確立していきたいですね。それこそ、「HONAMI RED」みたいに、農家だからこそ造れるビールなんだろうな、と。
取材・文/山口紗佳
【公式HP】https://mishima-farm.jp/
【Instagram】https://www.instagram.com/beerstand_honami/
【facebook】https://www.facebook.com/honami.farmersbrewery
目指しているのは「飲むと元気になれるビール」です。農家が母体だからこそ使える、さつまいもや生姜、季節の果物など、ユニークな副原料を使った、いろいろな味わいのビールがあります。仕事終わりにちょっと気分を切り替えたいとき、僕らのビールが、皆さんの「明日の活力」になれうれしいですね。
Farmer's Brewery 穂波
島根県浜田市
島根県の西部、日本海に面した石見地方の中心都市・浜田市。山陰随一の水揚げ量を誇る水産の街であると同時に、中国山地の豊かな山や清らかな川に恵まれ、おいしい食材と「石見神楽」などの伝統文化が息づく土地です。2018年にオープンした「Farmer’s Brewery 穂波」は山陰浜田港に併設する「はまだお魚市場」内にあり、有機野菜を手がける「三島ファーム」が運営しています。浜田市の農家だからこそ造れるビールの魅力について、醸造担当の安達豊さんにお話を聞きました。
その土地の恵みをいくらでも!農家だからこそできること

ビール造りって、「これで完成!」っていうのがないんですよ。
新しいホップや新しい酵母がどんどん世の中に出てきて、材料も技術もアップデートしていく。刺激的なビールを飲んで、「これどうやって造るんですか?」って聞いて、実際に試して「これはいいぞ!」って思えば定番ビールのレシピも大幅に変わります。
だいたい3年に1〜2回くらいはそういう変化がありました。だから、定期的にビールを飲みに広島や福岡、関西に遠征してますね。まあ、「修行」って言いながらも半分くらいは純粋に飲みに行きたいんですけどね(笑)。
僕がビール造りで大事にしているのは、「飲んだら元気になれるビール」です。
仕事が終わった後とか、気分を切り替えたいときに飲んでもらって、「さぁ明日も頑張ろう!」って思ってもらえるような。そんな、明日の活力になる一杯になれたらいいなと思って造っています。

Farmer’s Brewery 穂波の母体は、「三島ファーム」という有機野菜を栽培している農場。小松菜やほうれん草といった葉物野菜をメインとして、農薬や化学肥料を使わずに育てています。この「農家がつくるビール」というのが、僕らにとって一番の強みですね。地域の新鮮な素材を使えること。
それがオリジナリティだと思っています。
例えば、定番ビールの「HONAMI RED」。
これは自社栽培の紫芋を使ってるんですが、「農家じゃないと無理だよね」っていうくらい大量の紫芋を使ってるんです。紫芋が持つきれいな赤色をしっかり出す、というところに主眼を置いてレシピを設計しました。芋のでんぷんを糖分に変えて発酵させるんですが、紫芋の甘みや風味が味わえるオリジナルエールです。「HONAMI WHITE」というヴァイツェンには安納芋を使っています。糖度の高い安納芋とヴァイツェン特有の甘い香りが調和するんじゃないかと考えて。作物をビールに使うための加工も自分たちでやります。基本的に蒸したり、ペースト状にしたりして使ってますね。

培った“引き出し”の多さで素材の「らしさ」を表現
定番ビールは今、8種類ぐらい。
定番以外に年に2、3種類は季節限定を造っています。生姜を使ったブラウンエールや、いちごのセゾンなんかもありますよ。最近だと梨を使ったホワイトエールや、みかんを使ったペールエールですね。副原料は自社栽培以外に地域の協力を得て、なるべく浜田市産、島根県内のものを使うようにしています。でも野菜や果物を使うのって、結構難しいんですよ。
特に苦労したのは梨といちごですね。
柑橘みたいに香りが強いものは特徴が出やすいんですけど、梨やいちごは水分量が多くて香りや甘みは穏やかでしょう?うちは香料を一切使わないので、香りの弱い素材の風味を感じてもらうのがすごく難しい。そのまま使うと、どうしてもぼんやりしてしまうんです。だから、例えばコリアンダーのようなスパイスを使う。するとビール全体の輪郭がはっきりして、より「和梨っぽさ」を感じやすくなるんです。いちごの場合はコンポートにして(煮詰めて)から使います。

酵母の選定も大事です。
セゾン酵母が持つスパイシーな香りと、ホップの組み合わせ。例えばギャラクシーとかモザイクとか、酵母とそういうホップを掛け合わせることで、いちごの「ベリーっぽさ」を引き立てるんです。
今までで一番ユニークだった副原料は……「うどん」ですかね(笑)。
うどんの麺です。道の駅とのコラボで「うどんを製麺するときに出る切れ端を活用したい」とオファーがあって。ただ、うどんの切れ端だけだと、どうにも「うどん感」が弱くて。難しかったんですが、最終的には出汁も使って、全体としてうどんの雰囲気を感じられるように仕上げました。10年以上ビール醸造をやってきたので、「これをこうやって使えば、こんなふうに感じられやすい」っていう醸造の「引き出し」をいっぱい積んできたと思います。新しいことにチャレンジするときは、その引き出しを開けながら全体のバランスを取っていく。
「石見式」創業期から積み上げた経験と、学び続ける姿勢
僕自身はここ浜田市の出身なんです。

ビール造りを始めたのは、今から10年ほど前。「クラフトビール」って言葉をよく聞くようになった頃で、調べてみたら「個人で起業してビール会社が作れる」ってあるじゃないですか。面白そうだと思っていたとき、ちょうど隣の江津市で「石見麦酒」を立ち上げようとしていた山口さん(※石見麦酒代表)と出会って。そこで「一緒にやらないか」と誘ってもらって、石見麦酒の創業から参加することになりました。それまではビールが好きとは言っても、こんなに種類があって、個性があるものだとは知らなかった。
石見麦酒のような小規模醸造のいいところは、とにかく醸造回数が多いこと。
トライアンドエラーをこまめに何回もできる。そこで「この方法なら上達してきたな」っていう実感を得てきました。それに、石見麦酒つながりで、ブルワー同士の情報共有がすごく活発なんです。他の醸造所から相談に乗ることもあれば、「こうやったら良くなりましたよ」って逆に教えてもらうこともたくさんあって。お互いに醸造に関する知見を広げていった感じですね。
三島ファームがビール事業を始めたのは2018年です。
石見麦酒がいろいろなブルワリーのサポートやコンサルティングをしていた流れで、浜田市の三島ファームがビール部門を立ち上げたい、と。それで僕が役員として加わることになったんです。5年間くらいは石見麦酒の従業員でありながら、三島ファームの取締役醸造長、という2足の草鞋で働いていました。隣り合った自治体同士で一緒に品質を上げたり、材料を共同購入したりしながら、ビール業界全体を盛り上げていこうというスタンスだったんです。石見麦酒で3、4年経験を積んだ後だったので、三島ファームでの立ち上げは大きなトラブルもなく比較的スムーズでしたね。

Farmer’s Brewery 穂波のビールは、醸造所がある観光商業施設(おさかな市場)と、浜田駅前のお店で樽生を飲むことができます。地元の評判も良くて、「こういうビールもおもしろいね!」って楽しんでもらってます。「地元でやってるんだったら応援せんといけんね」なんて言ってもらえると、やっぱりうれしいですよね。初めてクラフトビールを飲む方で、苦味が苦手な方にはいちごを使ったトロピカルなビールがおすすめ。逆に、年配の方で「普段飲んでるのに近いやつがいい」って言われることも結構多いんですよ(笑)。クセのないピルスナーが好きな方には「ゴールデン」というペールエールをお出しします。
これだけ醸造所が増えた中で、生き残るためにはお客さんに選んでもらえないといけない。そのためにも、「三島ファームじゃないと飲めない」っていう、僕らならではの個性的な商品を確立していきたいですね。それこそ、「HONAMI RED」みたいに、農家だからこそ造れるビールなんだろうな、と。
取材・文/山口紗佳
【公式HP】https://mishima-farm.jp/
【Instagram】https://www.instagram.com/beerstand_honami/
【facebook】https://www.facebook.com/honami.farmersbrewery
目指しているのは「飲むと元気になれるビール」です。農家が母体だからこそ使える、さつまいもや生姜、季節の果物など、ユニークな副原料を使った、いろいろな味わいのビールがあります。仕事終わりにちょっと気分を切り替えたいとき、僕らのビールが、皆さんの「明日の活力」になれうれしいですね。
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