HIROSHIMA NOH BREWERY(広島県)のはなし
風土や文化を活かし、地域と共存する。 三次の畑から生まれた“農ビール”
HIROSHIMA NOH BREWERY
広島県三次市吉舎町
広島県北部の三次市は、江の川をはじめとする複数の川が合流する「水の都」で中国山地に囲まれた盆地です。幻想的な霧海が現れることでも知られ、内陸盆地特有の大きな寒暖差がピオーネをはじめとする多彩な農作物を育んでいます。この三次市で、2022年に新たな醸造所が誕生しました。地域の農産物を主役にしたビールを醸造する「HIROSHIMA NOH BREWERY」。醸造長の岡田アントニールイスさんにお話を聞きました。
三次市の地域おこし協力隊から農業、そしてビールへ

2025年2月、うちの「HASSAKU SAIZON」が日本地ビール協会の審査会「ジャパン・グレートビア・アワーズ2025」で初めて金賞をいただけたんです。あのビール、実は醸造所の初年度からずっとコンテストに出し続けてきたんですよ。最初は、もちろんかすりもしない。でも、出品するたびにいただく審査員の講評や、うちのビールを飲んでくれるお客さんからの意見をレシピに反映して改善していく。それを3年間繰り返して、3回目にしてようやく金賞が取れました。
自分たちだけで造っていると独りよがりになってしまうので、こういったフィードバックを大切にしています。いろんな声をもらえる環境に身を置いて、それを一つひとつ積み重ねていったら高い評価をいただけるまでになった。「ああ、これで間違ってなかったんだな」っていう達成感がうれしかったんですよね。
もともと僕は、広島市内でWeb制作の仕事をしていたんですが、自分から発信できるコンテンツを持ちたいと思うようになって、そんなときに見つけたのが「地域おこし協力隊」の募集でした。移住先に選んだのは広島県三次市。夏は暑く、冬は雪が降る寒暖差の激しい土地ですが、その気候のおかげでおいしい野菜や果物ができる地域でもあります。そこでWebやYouTubeを使って三次市の魅力を伝える任務に従事して、3年間の任期を終える頃にはこの土地の農家さんたちと一緒に何かできないかという思いが強くなっていました。任期中は農家さんのところに取材に行く機会がすごく多かったんです。そこで農作業を手伝わせてもらうこともあって、そのうちこの地域に根ざした生業を自分で作りたいと思うようになりました。特に「食」に関わることならイメージしやすかった。協力隊時代に知り合った農家さんたちがいるという心強さもありましたね。
そこで2018年に夫婦で立ち上げたのが、農産加工会社「株式会社なちゅbio」。三次の農作物を使ってジャムやドレッシング、漬物に加工して販売する会社です。僕ら自身でもメロンを栽培しています。

じゃあ、なんでそこからビールだったのか。
もともと僕、クラフトビールが大好きだったんです。年に2回は鳥取の「大山Gビール」さんに通って、スタウトやヴァイツェン、ドイツ系のビールばかり飲んでましたね。それと、この三次市っていう土地柄も。実は地ビールブームの頃に「三次ベッケンビール」っていう有名な醸造所があったんです(2009年に廃業)。ドイツスタイルのビールが絶品で評判だったから、お年寄りでもクラフトビールに馴染みがある。そういう土壌があったから、きっと受け入れてもらえるという安心感があったんです。
僕らにとってビール造りは、ジャムや漬物を作るのと同じ。「自分たちの手で、地域のものの価値を高める」農産加工の延長線上にあるんです。そこで「農産物としてのビール」を造ろうと決めて、2022年に「農(ノウ)」と「ビール」を掛け合わせたHIROSHIMA NOH BREWERYをオープンしました。

土地の風土と調和する。地域と一緒につくるつもりで
とはいえ、醸造なんてまったくの素人。
想像の何倍も難しかったですね。島根県の「石見麦酒」さんで研修を受けて醸造方法を学ばせてもらいましたが、教え通りにやっても同じ味にはならない。石見麦酒さんではおいしくできても、温度管理や煮沸条件など少し違うだけで味が大きく変わる。ここの環境に合わせて試行錯誤を重ねて、3ヶ月ぐらいは調整を繰り返していました。

排水の問題もありました。
醸造所のある場所は生活排水として水を流せるではあるんですが 、そうはいっても洗浄剤をそのまま流すわけにはいきません。周りは田んぼをやってる農家さんばかりですから、作物にどんな影響を及ぼすのかわからない。そこで、できるだけ環境に配慮した薬品を使って、周囲に迷惑をかけない方法を考えました。地域と共存する醸造所であるためには、地域の人と信頼関係が欠かせません。

そのおかげで、地元の繋がりもさらに強くなりました。「うちの作物も使ってくれないか」って、農家さんから声をかけてくれるようになって。そういう農家さんが、忘年会や行事の際に、自分の農作物で仕込んだビールをふるまって、自分ごとのように楽しんでくれる。そういう輪が広がっていくのが本当にうれしいですね。
僕らのコンセプトは、はっきりしています。

「広島のものを主役にする」、 もっと大事なのが「作物を作った農家さんの顔が全員わかる」こと。
僕らがビールを売るとき、「これは、三次市のあの人が作ったピオーネを使ってるんですよ」って、飲んだ方にちゃんとお話できる。そういう繋がりをビールに込めたかった。ただ、フルーツが主張しすぎてもダメで、ちゃんとビールとして調和する。そこをすごく大事にしています。
例えば、定番の「ピオーネエール」。
三次市はピオーネの名産地で糖度の高いおいしいぶどうが有名です。そのピオーネの果汁を使っています。でも皮を潰すように搾ると皮の渋みや土っぽい味が出てしまう。だから皮を取り除いた実を崩さないように、自重でゆっくり果汁が落ちるのを待つ。1日くらいかけて、手搾りで果汁本来のおいしいところだけを採るんです。これも、最初の3ヶ月で試行錯誤してたどり着いた方法ですね。
金賞をいただいた「HASSAKU SAIZON」 もそう。これは皮と実を分けて使っていて、煮沸段階で皮の香りを移して、ビールの完成間際に果汁を加える。さらに、アクセントで三次市産の「ぶどう山椒」も加えてるんですよ。すると、柑橘の爽やかさとスパイシーさを兼ねた風味に仕上がる。
レギュラー6種類のほかに、季節限定では桃やスイカ、メロンを使います。ホップも栽培しているので収穫期にはフレッシュホップビールも造っています。
日常が豊かになるような「食中酒」を目指して
僕自身は濃いビールが大好きなんですけど、お客さんはすっきりして食事に合うビールを好まれる方が多いですね。だからスタウト以外のビールは軽やかで、日本人が食事をしながら飲むことを意識した「食中酒」として造っています。ピオーネエールも、見た目は濃いんですけど、後口はすっきりしていて唐揚げなんかにも合うんですよ。

ビール造りから派生して、2年ほど前から三次市の市街地に「鉄板居酒屋」も始めました。お好み焼きや広島の郷土料理と一緒に、地酒やHIROSHIMA NOH BREWERYのビールが楽しめます。ビール好きじゃなくても、誰が来ても楽しめるような店です。僕らが目指す「食中酒」というコンセプトを体感してもらえる場所になっていると思います。
今後は、農作物だけじゃなくて、広島の違う産業とのコラボもやってみたいですね。例えば、林業が盛んなので間伐材の香りや海産物を使うとか。広島というカテゴリーでもっと広げていきたい。
国内の審査会で賞をいただけたので 、次は国際的な品評会である「インターナショナル・ビアカップ」に挑戦するつもりです。スキルアップを重ねながら、皆さんに楽しんでもらえる食中酒を三次市から届けていきたいと思っています。
取材・文/山口紗佳
【公式HP】https://hiroshima-noh-brewery.com
【facebook】https://www.facebook.com/hiroshimanohbrewery
【Instagram】https://www.instagram.com/hiroshimanohbrewery/
【X】https://x.com/NohBrewery
食中酒としてのバランスを大切にしています。飲み口はすっきり軽やか、唐揚げなどと合わせられるものもあります。ぜひ、皆さんの食卓で料理と合わせて気軽に楽しんでみてください。三次市には鉄板居酒屋もありますので、お近くにお越しの際はぜひお好み焼きや、地元料理とのペアリングも体験しに来てください!
HIROSHIMA NOH BREWERY
広島県三次市吉舎町
広島県北部の三次市は、江の川をはじめとする複数の川が合流する「水の都」で中国山地に囲まれた盆地です。幻想的な霧海が現れることでも知られ、内陸盆地特有の大きな寒暖差がピオーネをはじめとする多彩な農作物を育んでいます。この三次市で、2022年に新たな醸造所が誕生しました。地域の農産物を主役にしたビールを醸造する「HIROSHIMA NOH BREWERY」。醸造長の岡田アントニールイスさんにお話を聞きました。
三次市の地域おこし協力隊から農業、そしてビールへ

2025年2月、うちの「HASSAKU SAIZON」が日本地ビール協会の審査会「ジャパン・グレートビア・アワーズ2025」で初めて金賞をいただけたんです。あのビール、実は醸造所の初年度からずっとコンテストに出し続けてきたんですよ。最初は、もちろんかすりもしない。でも、出品するたびにいただく審査員の講評や、うちのビールを飲んでくれるお客さんからの意見をレシピに反映して改善していく。それを3年間繰り返して、3回目にしてようやく金賞が取れました。
自分たちだけで造っていると独りよがりになってしまうので、こういったフィードバックを大切にしています。いろんな声をもらえる環境に身を置いて、それを一つひとつ積み重ねていったら高い評価をいただけるまでになった。「ああ、これで間違ってなかったんだな」っていう達成感がうれしかったんですよね。
もともと僕は、広島市内でWeb制作の仕事をしていたんですが、自分から発信できるコンテンツを持ちたいと思うようになって、そんなときに見つけたのが「地域おこし協力隊」の募集でした。移住先に選んだのは広島県三次市。夏は暑く、冬は雪が降る寒暖差の激しい土地ですが、その気候のおかげでおいしい野菜や果物ができる地域でもあります。そこでWebやYouTubeを使って三次市の魅力を伝える任務に従事して、3年間の任期を終える頃にはこの土地の農家さんたちと一緒に何かできないかという思いが強くなっていました。任期中は農家さんのところに取材に行く機会がすごく多かったんです。そこで農作業を手伝わせてもらうこともあって、そのうちこの地域に根ざした生業を自分で作りたいと思うようになりました。特に「食」に関わることならイメージしやすかった。協力隊時代に知り合った農家さんたちがいるという心強さもありましたね。
そこで2018年に夫婦で立ち上げたのが、農産加工会社「株式会社なちゅbio」。三次の農作物を使ってジャムやドレッシング、漬物に加工して販売する会社です。僕ら自身でもメロンを栽培しています。

じゃあ、なんでそこからビールだったのか。
もともと僕、クラフトビールが大好きだったんです。年に2回は鳥取の「大山Gビール」さんに通って、スタウトやヴァイツェン、ドイツ系のビールばかり飲んでましたね。それと、この三次市っていう土地柄も。実は地ビールブームの頃に「三次ベッケンビール」っていう有名な醸造所があったんです(2009年に廃業)。ドイツスタイルのビールが絶品で評判だったから、お年寄りでもクラフトビールに馴染みがある。そういう土壌があったから、きっと受け入れてもらえるという安心感があったんです。
僕らにとってビール造りは、ジャムや漬物を作るのと同じ。「自分たちの手で、地域のものの価値を高める」農産加工の延長線上にあるんです。そこで「農産物としてのビール」を造ろうと決めて、2022年に「農(ノウ)」と「ビール」を掛け合わせたHIROSHIMA NOH BREWERYをオープンしました。

土地の風土と調和する。地域と一緒につくるつもりで
とはいえ、醸造なんてまったくの素人。
想像の何倍も難しかったですね。島根県の「石見麦酒」さんで研修を受けて醸造方法を学ばせてもらいましたが、教え通りにやっても同じ味にはならない。石見麦酒さんではおいしくできても、温度管理や煮沸条件など少し違うだけで味が大きく変わる。ここの環境に合わせて試行錯誤を重ねて、3ヶ月ぐらいは調整を繰り返していました。

排水の問題もありました。
醸造所のある場所は生活排水として水を流せるではあるんですが 、そうはいっても洗浄剤をそのまま流すわけにはいきません。周りは田んぼをやってる農家さんばかりですから、作物にどんな影響を及ぼすのかわからない。そこで、できるだけ環境に配慮した薬品を使って、周囲に迷惑をかけない方法を考えました。地域と共存する醸造所であるためには、地域の人と信頼関係が欠かせません。

そのおかげで、地元の繋がりもさらに強くなりました。「うちの作物も使ってくれないか」って、農家さんから声をかけてくれるようになって。そういう農家さんが、忘年会や行事の際に、自分の農作物で仕込んだビールをふるまって、自分ごとのように楽しんでくれる。そういう輪が広がっていくのが本当にうれしいですね。
僕らのコンセプトは、はっきりしています。

「広島のものを主役にする」、 もっと大事なのが「作物を作った農家さんの顔が全員わかる」こと。
僕らがビールを売るとき、「これは、三次市のあの人が作ったピオーネを使ってるんですよ」って、飲んだ方にちゃんとお話できる。そういう繋がりをビールに込めたかった。ただ、フルーツが主張しすぎてもダメで、ちゃんとビールとして調和する。そこをすごく大事にしています。
例えば、定番の「ピオーネエール」。
三次市はピオーネの名産地で糖度の高いおいしいぶどうが有名です。そのピオーネの果汁を使っています。でも皮を潰すように搾ると皮の渋みや土っぽい味が出てしまう。だから皮を取り除いた実を崩さないように、自重でゆっくり果汁が落ちるのを待つ。1日くらいかけて、手搾りで果汁本来のおいしいところだけを採るんです。これも、最初の3ヶ月で試行錯誤してたどり着いた方法ですね。
金賞をいただいた「HASSAKU SAIZON」 もそう。これは皮と実を分けて使っていて、煮沸段階で皮の香りを移して、ビールの完成間際に果汁を加える。さらに、アクセントで三次市産の「ぶどう山椒」も加えてるんですよ。すると、柑橘の爽やかさとスパイシーさを兼ねた風味に仕上がる。
レギュラー6種類のほかに、季節限定では桃やスイカ、メロンを使います。ホップも栽培しているので収穫期にはフレッシュホップビールも造っています。
日常が豊かになるような「食中酒」を目指して
僕自身は濃いビールが大好きなんですけど、お客さんはすっきりして食事に合うビールを好まれる方が多いですね。だからスタウト以外のビールは軽やかで、日本人が食事をしながら飲むことを意識した「食中酒」として造っています。ピオーネエールも、見た目は濃いんですけど、後口はすっきりしていて唐揚げなんかにも合うんですよ。

ビール造りから派生して、2年ほど前から三次市の市街地に「鉄板居酒屋」も始めました。お好み焼きや広島の郷土料理と一緒に、地酒やHIROSHIMA NOH BREWERYのビールが楽しめます。ビール好きじゃなくても、誰が来ても楽しめるような店です。僕らが目指す「食中酒」というコンセプトを体感してもらえる場所になっていると思います。
今後は、農作物だけじゃなくて、広島の違う産業とのコラボもやってみたいですね。例えば、林業が盛んなので間伐材の香りや海産物を使うとか。広島というカテゴリーでもっと広げていきたい。
国内の審査会で賞をいただけたので 、次は国際的な品評会である「インターナショナル・ビアカップ」に挑戦するつもりです。スキルアップを重ねながら、皆さんに楽しんでもらえる食中酒を三次市から届けていきたいと思っています。
取材・文/山口紗佳
【公式HP】https://hiroshima-noh-brewery.com
【facebook】https://www.facebook.com/hiroshimanohbrewery
【Instagram】https://www.instagram.com/hiroshimanohbrewery/
【X】https://x.com/NohBrewery
食中酒としてのバランスを大切にしています。飲み口はすっきり軽やか、唐揚げなどと合わせられるものもあります。ぜひ、皆さんの食卓で料理と合わせて気軽に楽しんでみてください。三次市には鉄板居酒屋もありますので、お近くにお越しの際はぜひお好み焼きや、地元料理とのペアリングも体験しに来てください!
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