ビールの縁側

日南麦酒(宮崎県)のはなし

今日はどんなビールを飲もう?
南国陽気をたっぷり詰め込んで、選ぶワクワクも提案したい。

宮崎県南部にある日南市。
温暖な気候から、1年中南国ムードを味わえる観光地として人気の都市です。中でも宮崎市から鹿児島県に至る全長100㎞以上のコーストライン、青い海とダイナミックな入り江が織りなす日南海岸は宮崎を代表する景勝地。南国らしい花木に彩られた海岸沿いには、洞窟の中に建てられた「鵜戸神宮」や世界で唯一イースター島から復元を許されたモアイ像が並ぶ「サンメッセ日南」など、見どころも豊富です。そんな南国情緒にあふれた日南市に2017年誕生したのが日南麦酒。代表でブルワーの橋本彰史さんにお話を聞きました。

きっかけはサミュエルアダムスの「ボストンラガー」でした。

 

20代前半まではむしろビールが苦手だったんですよ。そこまでおいしいと思えなかったですね。それが、たまたま手にしたサミュエルアダムスの「ボストンラガー」を飲んで印象が変わったんです。「ビールってこんなに香りが良いものだったんだ」って。

 

それから国内外のさまざまなビールを飲むようになりました。

 

当時は宮崎でクラフトビールを扱うお店なんてなかったので、出張先の東京でビアパブに行ったり、酒屋でボトルを買ってみたり、機会を見つけてはクラフトビールを飲んでいました。ビールにハマった僕を見て、2012年に友人が「八蛮」という銀座の居酒屋に連れて行ってくれたんです。そこでは店内の狭いスペースで自家製ビールを造っていて「こんなに小さなスペースでもビールが造れるんだ!」と目から鱗でしたね。ビールは大手メーカーの大規模なプラントじゃないと造れないと思ってましたから。新しい事業としてビールを自分で造ってみようと思い始めたのはそこからです。

 

実は「櫻乃峰酒造」という焼酎の蔵元で代表取締役を務める橋本さん。
地元の日南市で1877年に創業して、6代目から橋本さんのお父様が蔵を受け継ぎ、橋本さんは7代目として焼酎造りを行う杜氏も担っていました。

 

いずれ総合飲料メーカーとして、焼酎だけではなく醸造酒やさまざまな飲料を展開したいという想いもありました。ただ、一年中温暖な気候の宮崎でワイナリーを起こすのは難しい。ビールであれば副原料として地元の農作物が使えて、地域に根差したものが造りやすいと思ったんです。

 

宮崎県は北部の延岡に「宮崎ひでじビール」、中部の宮崎市に雲海酒造が手掛ける「雲海麦酒」、西部の県境に霧島酒造の「KIRISHIMA BEER」がありますが、南部の日南エリアにはまだローカルブルワリーがなかったことも理由のひとつです。僕自身も楽しみながら仕事に取り組みたかったので、生まれ育った日南でマイクロブルワリーの起業を決意。そこから製造免許を取る準備を始めました。

 

焼酎造りを通して機械や酵母の扱いには慣れていましたが、醸造酒は初めてでしたから、まずは醸造経験を積まなければいけません。そこで島根県の「石見麦酒」と鹿児島県の「城山ブルワリー」で研修を受けることに。150Lのコンパクトな設備という利点を活かしてバラエティ豊富な銘柄を仕込む石見麦酒と、ホテルのレストランで提供するために規模の大きい設備で効率良く造る城山ブルワリー、それぞれ規模の異なる設備で学べたことは大いに参考になりましたね。

 

 

知人を介してブルワリーの条件に合った物件も見つかり、2017年7月に醸造免許がおりて、仕込んだビールが9月に完成。日南麦酒として最初にリリースしたのは、オレンジピールの代わりに鹿児島産のゆずの皮を使った「ベルジャン・ホワイト」でした。苦味が少なく、華やかな香りをまとう飲みやすいベルジャン・ホワイトは女性にも人気です。

 

それからラインナップを広げて現在は7種類。

 

意識したのは、九州の素材とサーフスポットです。

 

レシピを変えたベルジャン・ホワイトの他に、ゆずピールをたっぷり使った“ハンパない柚子ピール”から名付けたフルーツウィートエール「パネユズエール」や、日本の棚田百選に選ばれた坂元棚田でつくられた米を使ったセゾン「坂元棚田エール」、日南産温州みかんをたっぷり投入した「みかんエール」など。全部はまだ難しいですが、地元の人に親しんでもらえるように、なるべく日南や九州の素材を取り入れたいと思っています。

 

一方で「木崎浜ペールエール」「梅ヶ浜 HOP BURST」「恋ヶ浦IPA」の名前は日南海岸のサーフポイントに由来しています。温暖な気候と良い波に恵まれる日南海岸は、一年中サーフィンが楽しめるサーフィンのメッカとしても有名で、絶好のサーフポイントが集まっているんです。日南のサーフカルチャーと自然をビールに取り入れたら、会話が弾むきっかけにもなりますし、若い人もとっつきやすいんじゃないかと思って。

 

焼酎造りとは違ったビール造りの難しさ

 

実はブルワリーが稼働して1年間は悪戦苦闘の日々でした。

 

工学部出身で機械いじりは得意でしたが、購入した設備が思うように動かなかったんです。さらに設備の癖を把握するのに苦労したり、税務署関連の書類作成に時間をとられたり、イメージ通りの味に仕上がらなくて四苦八苦。工程ごとに問題をひとつずつクリアしていくことに苦戦しました。すべて一人でこなしていたので、安定した品質のビールを出せるまでに1年ぐらいかかったでしょうか。

 

とりわけ洗浄や衛生管理には今でも気を遣います。

 

ひとたび雑菌が混入するとリカバリーできないですから、醸造工程からボトルのパッケージングまで、すべての工程で一貫して衛生面には気を配っていますね。焼酎造りにおいても衛生管理は大切ですが、焼酎は黒麴菌や白麴菌が作り出す大量のクエン酸がもろみの酸度を高くするため、酸の力で抑制されて雑菌が繁殖しづらいんです。蒸溜工程もあってハイアルコールの焼酎と比べると、糖分が豊富でアルコール度数が低いビールは雑菌汚染のリスクが高い飲み物。それだけ扱いには気をつけなければいけません。

 

とはいえ、今も簡単な設備では品質のコントロールに限界があるので、今後は設備投資でタンクの本数を増やして、品質維持と醸造量拡大を目指します。タンクに余裕ができたらW-IPAやバーレイワインなど、季節ごとのスポット商品にもチャレンジできますしね。

 

 

地元のお祭りや市場など、イベント出店で少しずつ知られるようになったせいか、最近では出荷量も増えてきました。日南市の北郷温泉で毎年開催される「日南・地ビール祭り」で取り扱っていただくようになって、温泉で飲んだお客様が「おいしい!」と気に入ってブルワリーまで買いに来てくださったときはうれしかったですよ。日南のビールとして根づいてきたのを実感できました。

 

最近では宮崎市内の飲食店や物産店でも置いてもらえるようになりましたが、樽生はほとんど飲めないんです。お店でフレッシュなビールが飲めるように、飲食店向けの樽生のリリースにも力を入れたいと思っています。

 

完熟マンゴーやパッションフルーツ、パイナップルに代表する南国フルーツや、日向夏や温州みかんなどの柑橘類と、日南市は温暖な気候がもたらすフルーツの宝庫!風光明媚な日南にはバラエティ豊富な素材がたくさんあるので、造ってみたいビールのビジョンも膨らみます。

 

取材・文/山口 紗佳

鈴木オーナー

宮崎といえば青い空と美しい海岸線が続くカラッと明るい南国ムード。
明るい陽気と自然を詰め込んだ個性豊かなフレーバーから、「今日はどれを飲もう?」と、
南国気分でビールを選ぶ楽しさも味わってください。

OTHER BREWERIES

その他のブルワリー

福島のおいしいビールをお届けすることが一番の恩返しになるから、技術を磨き続ける。

みちのく福島路ビールは、福島市郊外の丘陵にあるアンナガーデン内に1997年に創業された家族経営の醸造所。吾妻山系を臨むうつくしいガーデン内で、厳選された原料と地元の果物を使ってつくられるビールにはファンも多くいます。現在醸造長を務める吉田真二さんは、2009年にホテルの仕事からビール醸造の世界に飛び込みました。醸造への不安や、東日本大震災によって何度も壁に当たりますが、その度に手を差し伸べてくれたお客さんやブルワー仲間、家族がいました。多くの人たちとの助け合いの輪が、今のみちのく福島路ビールのおいしさにつながっています。

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福島路ビール

福島県福島市

もっと自由に!もっと面白く!もっと気軽に!クラフトビールを身近なものにしたい

「Vector Brewing」がある東京都台東区浅草橋は、下町の情緒が残るモノづくりの町。2016年に新宿で誕生した醸造所は、2017年に醸造の拠点を浅草橋に移し、常に“面白い”ビールを発信しています。それはクラフトビールをもっと自由で気軽に楽しんでもらうため。ユニークなデザインとネーミング、豊富なラインナップは初心者でも手に取りやく、クラフトビールファンをジワジワと増やしています。元銀行員でラガーマンだという異色の経歴をお持ちのブルワー三木敬介さんにお話を伺いました。

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VECTOR BREWING

東京都大田区

「Beer is Art」を胸に、北海道・江別ならではのビールを育みたい

北海道の中部、石狩平野の中央にある江別市は、国産小麦の代表格として知られる「ハルユタカ」が生まれた土地。パンや麵、スイーツ、ビール醸造に適した国産品種がいくつも誕生した日本有数の小麦の産地です。札幌市の中心部から近く、空港や港湾へのアクセスも良いことから、生活に便利なベッドタウンでもあります。その江別自慢の「ハルユタカ」を使ってビールを醸造しているのが、2009年から江別市で醸造をしている「NORTH ISLAND BEER」。元ヘッドブルワーで現在は取締役工場長を務める多賀谷壮さんにお話を聞きました。

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NORTH ISLAND BEER

北海道江別市

尖った味ではないかもしれない。 その分、どれを飲んでも外さない安心感と質の高さは世界に誇れるもの

滋賀県北東部、琵琶湖のほとりにあり長浜城の城下町として栄えた長浜市は、伝統的な建築物が集まる県内有数の観光スポット「黒壁スクエア」など、現在でも当時に面影を残す情緒ある町並みが広がっています。そのレトロモダンな風景にとけ込むように佇むのが、米川に面した「長濱浪漫ビール」のブルワリーレストランです。江戸時代から続く築100年以上の米蔵を改築した醸造所は1996年にビール醸造を開始。2016年からは施設内に「長濱蒸溜所」を開設して、クラフトウイスキーの製造もしています。ブルワーの上村雄大さんにお話を聞きました。

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長濱浪漫ビール

滋賀県長浜市

ベルギーと日本、そして世界中へ。
ビールでつなぐ人の円が、広がりのある未来を見せてくれる

「RIO BREWING&CO.(リオ・ブルーイング・コー)」は、ベルギービール名誉騎士である菅原亮平さんが2015年にベルギー現地法人にて設立したブランド。特定の醸造所を持たないファントムブルワリーを経て、2018年に東京・五反田に自社醸造所を構え、2021年に千葉県柏市に拡大移転しました。運営するEVER BREW株式会社は、「デリリウムカフェ」「ベル・オーブ」「ブラッスリー セント・ベルナルデュス」「ブラッスリーMUH」「ウルビアマン」「ブッチャー・リパブリック」等、ベルギービールやクラフトビールを主軸とした飲食店を多数展開しています。RIO BREWING.COの代表、菅原亮平さんにお話を聞きました。

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RIO BREWING & CO.

千葉県柏市

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