NORTH ISLAND BEER(北海道) のはなし
「Beer is Art」を胸に、北海道・江別ならではのビールを育みたい
NORTH ISLAND BEER
北海道江別市
北海道の中部、石狩平野の中央にある江別市は、国産小麦の代表格として知られる「ハルユタカ」が生まれた土地。パンや麵、スイーツ、ビール醸造に適した国産品種がいくつも誕生した日本有数の小麦の産地です。札幌市の中心部から近く、空港や港湾へのアクセスも良いことから、生活に便利なベッドタウンでもあります。その江別自慢の「ハルユタカ」を使ってビールを醸造しているのが、2009年から江別市で醸造をしている「NORTH ISLAND BEER」。元ヘッドブルワーで現在は取締役工場長を務める多賀谷壮さんにお話を聞きました。
当時からカナダのビールって、いい意味で「地域色」がなかったんですよね。
ドイツなら伝統的なラガースタイル、ベルギーならベルジャンスタイルが真っ先に浮かぶように、その国ごとによく飲まれているビールがあるものですが、「カナダならこのビール!」といった特定のスタイルがないんです。驚くほどたくさんの種類があって、歴史や枠に縛られない自由なビールを造る醸造所がどの地域にもある。しかも、安くて水のように飲めちゃうから、日本では飲めないようなおいしいビールが本当に気軽に飲めちゃうんです。
1990年代後半、私はバンクーバーにあったブルワリーで醸造修行を積んでいたんですが、夜になるとその日に学んだビールと同じスタイルのビールを他のブルワリーで飲み比べて復習したりして。当時の日本、ましてや北海道では絶対にできなかった経験です。当時勤めていた会社が小規模醸造用の設備や原料を扱う商社で、カナダには取引先へのレクチャーや技術指導のためにビール造りを学びに行きましたが、在留資格が就労ビザではなかったので、2~3カ月ごとにカナダと日本を行き来する生活でした。北米でお世話になった研修先の中には、1回の仕込みが50L程とかなり少量から醸造しているブルワリーもあったので、扱う設備の違いはもちろん、醸造方法や品質管理など、あらゆることを学べるチャンス。そこで好きなことに夢中になって取り組む時間を過ごした私は、いつか自分のブルワリーをもって、ビール造りを本業にしたいと思うようになっていました。
ビール文化が生活に根づいたカナダの空気を肌で感じて、北海道でもこんな風に日常的にビールを飲める環境をつくりたい、本当においしいビールを北海道の人たちに飲んでもらいたい。その思いが今でもノースアイランドビールの軸になっています。
カナダの醸造研修から札幌に戻ると、前職の商社で醸造設備の購入を検討していた坂口(※1)から北海道でブルワリーを立ち上げる計画を聞きました。「ブルワーとして一緒にやってみないか?」と誘われたんです。私にとってもカナダの醸造経験を活かせる絶好のチャンス。そこで2002年、仲間と4人で「カナディアンブルワリー(NORTH ISLAND BEERの前身)」を設立。日本の小規模醸造はどん底の時代でしたが、信念を持って地道に続けていれば、いつか日の目を見る日が来るだろうと思っていました。今思えば、若さゆえに不安より勢いが勝ったのかもしれません(笑)
はじめは札幌市東区にあった倉庫を改築して小さな工場を建て、製造免許を取得して2003年3月に醸造をスタート。最初はラガー、エール、スタウトの3種類を定番商品として、夜はそこでできたてのビールが飲めるビアバーの営業もしていました。
※1 NORTH ISLAND BEERの代表、坂口典正氏。運営会社であるSOCブルーイング株式会社の代表取締役社長。
ビールも時代に合わせてアップデートしないと、独りよがりになってしまうから
おかげさまでビールは好評。ファンも増えて事業は順調でしたが、当時は工場というよりも「工房」といった小さな設備で、タンク1回で仕込める量はわずか150L~200L。朝から晩まで毎日仕込んでも製造が需要に追いつかず、限りのある設備の製造が頭打ち状態でした。これでは企業としての成長も見込めません。
そこで急遽移転先を探し始めて2009年、江別市に拡張移転することに。
札幌市に隣接する江別市は、農業が盛んな土地で国産小麦の名産地なんです。中でも特に有名な「ハルユタカ」は、パンやうどん、ラーメンなどの製麺やお菓子作りに適した品質をもつ小麦ブランドで、江別市が全国一の生産量を誇っています。市内には食品加工センターや大学と連携した農業研究施設も多く、道内きっての食品研究都市です。農作物と切り離せないビール造りにとってもうってつけの場所。ビールの地産地消を進めたいブルワリーとしても好都合でした。
この工場移転を機に「NORTH ISLAND BEER」とブルワリー名を改め、札幌市内の中心部に直営店「Beer Bar NORTH ISLAND」を新規オープン。札幌は北海道最大のマーケットですからね。多くの人にビールを飲んでもらうためにタップルームの存在は欠かせません。江別の工場には1000Lのタンクを導入してラインナップも見直し、評判の良かった「コリアンダーブラック」と「ヴァイツェン」を定番に加えました。このヴァイツェンにハルユタカを使っています。麦芽化していない小麦を使うことで、ヴァイツェンならではのフルーティな香りを出しつつも、ライトで軽い飲み口に仕上がっています。あっさりして飲みやすいのでとっても人気ですね。
小麦の他にも江別産のハスカップやブルーベリーなど、できるだけ北海道の素材を使いたいと思っています。そもそもお酒ってデイリーに楽しむものですから、地元の人が気軽に飲めるようなビール造りが理想なんです。新しいスタイルが次々と生み出されるビールの進化に合わせて飲み手も進化しているので、アップデートしないとお客様は離れてしまいます。ですから今はヘッドブルワーを若手に任せて私は醸造を見守る立場。カナダで学んだ「自分たちがおいしいと思う自由なビール」というスタンスを守りながら、斬新な発想や感性をビールで表現してもらいたいと思っています。
「Beer is Art」
これはカナダのブルワリーで言われた言葉です。
「ビールは数字じゃない!感じるものだ!」と。
生物を扱うことをはじめとして、醸造には科学的な知識と技術が必要なので数字はとても大事です。ただ、数字はあくまで形にするためのツール。最後に味わいを決めるのは「感性」だと。ブルワーはビールという形で表現するアーティストなんだと教わりました。生真面目に温度や原料の配合など数字を細かく記録していた私を師匠が諭したんでしょうね。当時は慣れない英語に加えて、専門技術を覚えることに必死だったものですから(笑)。ビールの奥深さを知った今は「Beer is Art」の意味がわかる気がします。その難しさも含めて。
北海道の大地から生まれるビールですから、ビールという広大なスペースに「NORTH ISLAND BEER」の世界観をのびのびと描いていきたいですね。
取材・文/山口 紗佳
注文を受けてから樽詰めしているので、工場できたてのフレッシュな状態を味わっていただけると思います。自分で好きなだけ注げるというエンターテイメント性もありますし、おうち時間を楽しむツールのひとつとして、気軽に楽しんでください!
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