OUR BREWING(福井県)のはなし
人種や文化、国境を超えたその先に。 シンプルにおいしいビールで、人や世界はもっとつながる
OUR BREWING
福井県福井市中央
2024年3月、北陸新幹線の金沢〜敦賀間が延伸開業し、福井駅は多くの人で賑わいを見せました。駅前では恐竜のモニュメントが出迎え、商業施設が次々に開業。周辺には福井城址などの歴史的な名所や、日本海の新鮮な幸を楽しめる飲食店が軒を連ねています。そんな活気あふれる福井駅前の商業施設の一角に、新幹線開業に伴ってオープンしたのが「OUR BREWING」。代表の岡田朋大さんにお話を聞きました。
限りなくシンプルに。多すぎる情報は伝わらない。
うまいビールって、飲んだ瞬間「うまい!」ってなりませんか?
少なくとも、飲んだときに「うーん」って考え込まないですよね。伊勢角さん(伊勢角屋麦酒)のペールエールなんかもそう。ストレートにうまい!って入ってくる。

OUR BREWINGが目指しているのは、そういうシンプルなおいしさ。
そのために引き算のレシピ設計をしています。例えばHazy IPAを造るとき、このホップも入れたい、あのホップも入れてみようっていろんなものを重ねていくと、全体がぼやけてくるというか、印象として強く残りづらいと感じていました。
それに醸造所のある福井県は、クラフトビールが定着していない土地。
「ビール=苦い」というイメージが根強くて、そもそもクラフトビールを飲んだことがない人も多いんです。それなのに「あのホップも入れました、このホップも入れました」って話をしても全然伝わらないんです。情報が多くてごちゃついてると、本当に伝えたいことが伝わらない。だから、目指すのは「輪郭がはっきりしたもの」。僕はよく「パキッとした味」って言ってますね。
この「引き算の考え方」が活きたのが、試行錯誤を重ねてきた定番「Four Dimensions」。
「Asia Beer Championship2025」というアジアを代表するビールの品評会で金賞を受賞したんです。クラシカルなバランスが重視されるブリティッシュ・ペールエール部門で評価されたのはすごくうれしかったですね!

シンプルと言えば、「International Beer Cup 2024」で金賞をもらった定番「Hoppy Hour」(ホッピー・アワー)というコールドIPAは、シングルホップで造ると決めてるんです。使うホップは変えてますが、そのほうがホップの個性が伝わるし、結果的に長く愛されるんじゃないかなって。
オハイオの片田舎で「居場所」をつくってくれたビール
この「シンプル」という考え方の原点は、2014年のアメリカ留学まで遡ります。
大学の商学部でビジネスを学んでいた僕は、アメリカの経営学を学びにオハイオ州へ渡りました。人口2万人の小さな町です。そこで初めて飲んだIPA、ホップの鮮烈な香りがストレートに感じられるビールに衝撃を受けたんです。いわゆるドライホッピングのすごさに触れた。当時の日本では、ホップをきかせたビールが少なかったので強烈でしたね。
そして、ビールは僕に「居場所」をくれた。
オハイオは結構保守的な地域で、アジア人である僕は明らかにマイノリティでした。
たまに心無い人に差別的なことを言われて、孤独感を感じることも少なくなかった。でも不思議と、ビールを飲んでるときはそんなことがなかったんです。ブリューパブのウェルカムな空気はすごくありがたかったです。現地の人から「ビール好きなのか」とか「どこから来た?」と僕に興味を持って声をかけてくれることが多くて、「日本から来た」と言うと「日本じゃどんなビールを飲む?」って会話が広がっていく。

自然とコミュニケーションが誘発されるこの感じこそ、ビールのいいところですよね。
ワインやウイスキーはひとりで飲んだり、内輪で飲むイメージがありますが、みんなでワイワイ飲むのはビール特有の感覚なのかなって。ビールがある場所だと、閉ざしていた心がほどけるのがわかりました。最初はただビールが好きで通っていたのですが、振り返ると、オハイオのブリューパブに僕は救われたところもあると思います。
現地では驚くほど簡素な設備でビールを造っているのも衝撃でした。それならやってみようと、留学中にホームセンターで自家醸造キットを買ってホームブルーイングもやってみました。日本じゃできませんからね!(笑)。
初めて造ったのはヴァイツェン、それなりにおいしくできたんですけど、梅酒を漬けるような樽でやっていたので酸化しやすかった。でも自分でやってみたからこそ、設備の大切さを知ったというか、改めて「プロはすごい」と思えたんです。ところが、帰国後に調べれば調べるほど、日本では事業としてやっていくのが難しいことがわかりました。初期投資が大きいのにマーケットが小さいんです。ビール会社に就職すると、もうそれをやるしかなくなる。そんな現実に直面してモチベーションがトーンダウン。
当時はそこまで踏み切れなかったんですよね。
そこで、ご縁もあってIT業界に進みました。IT業界でそのまま続ければ安定したキャリアを築けたんでしょうけど、周りに独立起業する人も増え、そんな人たちの熱量を目の当たりにして、やがて手段として仕事をしている自分が申し訳ないと思うようにもなってきたんです。そんなとき、醸造所に物流サービスを提供する「Best Beer Japan」と出会って2020年に転職。200社〜300社にアプローチして、醸造所経営のリアルに触れられたのは大きな財産です。
徐々に、自分も醸造所をやってみたいと思うようになりました。
「一流」の現場を見て、進むべき道が見えた
とはいえ、僕の業界経験はアメリカでのホームブルーイングと、Best Beer Japanで働いていた経験のみ。だから伊勢角屋麦酒とBlack Tide Brewingで研修を積ませていただきました。
伊勢角さんに関しては、やっぱり品質ですよね。どのビールも高品質。
常温流通で量販店向けの商品開発をしつつ、ビアバーが喜ぶような商品もいっぱい造られていて、その両輪を回している。僕の理想の醸造所に近かったんです。

さらに驚いたのが、酵母の扱い方がすごく丁寧で慎重。
発酵中のビールの状態確認はもちろん、新しく酵母を入れるときには、その酵母を顕微鏡で見ていました。毎回ちゃんと必要な数が動いているかを目でチェックしてるんです。すごいなと思いましたね。クリーンルームで酵母の培養も手掛けていて、「ここまでやるのか」と圧倒されました。
Black Tide Brewingは、比較的新しいブルワリーですが、すごく勢いがあって、商業施設の中に醸造所があるところがOUR BREWINGとの共通点。単純に醸造スキルを学ぶ以外に、経営というか、醸造所を回していくチャレンジの部分も学びに行きました。スタッフそれぞれが、役割を目一杯果たそうとする姿が印象的で、自分達もこんなチームにならないと生き残れない、と感じましたね。
トップレベルのブルワリーの現場を見ることで、進むべき道筋が見えました。

そうして2024年3月、ご縁があって福井駅前の商業施設に醸造所を開業。
うれしいのは、地元の人も「おいしいね」って言ってくれること。それが一番ですね。
県外から観光客も多いです。「福井の人が羨ましいですね」とか、「近くに来たら絶対寄るようにしてる」って言ってくださる方も多くて、すごくうれしいですね。

OUR BREWINGは、生産者や消費者、地域、記憶、すべてが混ざり合った“みんなのための醸造所”になりたいという願いから名付けています。ロゴマークを吹き出しや泡のような形にしたのは、「人と人とのコミュニケーションを生み出したい」という思いと、OUR(アワー)の音から連想される「ビールの泡」に見えるように。グレーを採用したのは、「絵の具セットの全て色を混ぜるとグレーになる」という話から着想を得て、「多様性」をあえてグレーで表現しています。
福井県産の大麦を使ってこの土地の水でビールをつくりながら、地元に根ざし、地元の人の誇りになりたい。そのためにも、日々レベルアップして質の高いビール造り続けなければと思っています。人種や文化、国境、言葉を超えて、OUR BREWINGのビールで、人や世界がもっとつながりますように!
取材・文/山口紗佳
【公式HP】https://ourbrewing.com/
【Instagram】https://www.instagram.com/ourbrewing/
【X】https://x.com/ourbrewingfukui
すべてのビールに福井県産の大麦を使い、この土地の水で「シンプルにおいしい」を突き詰めています。自由で多様であるっていうのがビールのいいところだと思うので、お好きなタイミングで、自由に楽しんでいただければ!
OUR BREWING
福井県福井市中央
2024年3月、北陸新幹線の金沢〜敦賀間が延伸開業し、福井駅は多くの人で賑わいを見せました。駅前では恐竜のモニュメントが出迎え、商業施設が次々に開業。周辺には福井城址などの歴史的な名所や、日本海の新鮮な幸を楽しめる飲食店が軒を連ねています。そんな活気あふれる福井駅前の商業施設の一角に、新幹線開業に伴ってオープンしたのが「OUR BREWING」。代表の岡田朋大さんにお話を聞きました。
限りなくシンプルに。多すぎる情報は伝わらない。
うまいビールって、飲んだ瞬間「うまい!」ってなりませんか?
少なくとも、飲んだときに「うーん」って考え込まないですよね。伊勢角さん(伊勢角屋麦酒)のペールエールなんかもそう。ストレートにうまい!って入ってくる。

OUR BREWINGが目指しているのは、そういうシンプルなおいしさ。
そのために引き算のレシピ設計をしています。例えばHazy IPAを造るとき、このホップも入れたい、あのホップも入れてみようっていろんなものを重ねていくと、全体がぼやけてくるというか、印象として強く残りづらいと感じていました。
それに醸造所のある福井県は、クラフトビールが定着していない土地。
「ビール=苦い」というイメージが根強くて、そもそもクラフトビールを飲んだことがない人も多いんです。それなのに「あのホップも入れました、このホップも入れました」って話をしても全然伝わらないんです。情報が多くてごちゃついてると、本当に伝えたいことが伝わらない。だから、目指すのは「輪郭がはっきりしたもの」。僕はよく「パキッとした味」って言ってますね。
この「引き算の考え方」が活きたのが、試行錯誤を重ねてきた定番「Four Dimensions」。
「Asia Beer Championship2025」というアジアを代表するビールの品評会で金賞を受賞したんです。クラシカルなバランスが重視されるブリティッシュ・ペールエール部門で評価されたのはすごくうれしかったですね!

シンプルと言えば、「International Beer Cup 2024」で金賞をもらった定番「Hoppy Hour」(ホッピー・アワー)というコールドIPAは、シングルホップで造ると決めてるんです。使うホップは変えてますが、そのほうがホップの個性が伝わるし、結果的に長く愛されるんじゃないかなって。
オハイオの片田舎で「居場所」をつくってくれたビール
この「シンプル」という考え方の原点は、2014年のアメリカ留学まで遡ります。
大学の商学部でビジネスを学んでいた僕は、アメリカの経営学を学びにオハイオ州へ渡りました。人口2万人の小さな町です。そこで初めて飲んだIPA、ホップの鮮烈な香りがストレートに感じられるビールに衝撃を受けたんです。いわゆるドライホッピングのすごさに触れた。当時の日本では、ホップをきかせたビールが少なかったので強烈でしたね。
そして、ビールは僕に「居場所」をくれた。
オハイオは結構保守的な地域で、アジア人である僕は明らかにマイノリティでした。
たまに心無い人に差別的なことを言われて、孤独感を感じることも少なくなかった。でも不思議と、ビールを飲んでるときはそんなことがなかったんです。ブリューパブのウェルカムな空気はすごくありがたかったです。現地の人から「ビール好きなのか」とか「どこから来た?」と僕に興味を持って声をかけてくれることが多くて、「日本から来た」と言うと「日本じゃどんなビールを飲む?」って会話が広がっていく。

自然とコミュニケーションが誘発されるこの感じこそ、ビールのいいところですよね。
ワインやウイスキーはひとりで飲んだり、内輪で飲むイメージがありますが、みんなでワイワイ飲むのはビール特有の感覚なのかなって。ビールがある場所だと、閉ざしていた心がほどけるのがわかりました。最初はただビールが好きで通っていたのですが、振り返ると、オハイオのブリューパブに僕は救われたところもあると思います。
現地では驚くほど簡素な設備でビールを造っているのも衝撃でした。それならやってみようと、留学中にホームセンターで自家醸造キットを買ってホームブルーイングもやってみました。日本じゃできませんからね!(笑)。
初めて造ったのはヴァイツェン、それなりにおいしくできたんですけど、梅酒を漬けるような樽でやっていたので酸化しやすかった。でも自分でやってみたからこそ、設備の大切さを知ったというか、改めて「プロはすごい」と思えたんです。ところが、帰国後に調べれば調べるほど、日本では事業としてやっていくのが難しいことがわかりました。初期投資が大きいのにマーケットが小さいんです。ビール会社に就職すると、もうそれをやるしかなくなる。そんな現実に直面してモチベーションがトーンダウン。
当時はそこまで踏み切れなかったんですよね。
そこで、ご縁もあってIT業界に進みました。IT業界でそのまま続ければ安定したキャリアを築けたんでしょうけど、周りに独立起業する人も増え、そんな人たちの熱量を目の当たりにして、やがて手段として仕事をしている自分が申し訳ないと思うようにもなってきたんです。そんなとき、醸造所に物流サービスを提供する「Best Beer Japan」と出会って2020年に転職。200社〜300社にアプローチして、醸造所経営のリアルに触れられたのは大きな財産です。
徐々に、自分も醸造所をやってみたいと思うようになりました。
「一流」の現場を見て、進むべき道が見えた
とはいえ、僕の業界経験はアメリカでのホームブルーイングと、Best Beer Japanで働いていた経験のみ。だから伊勢角屋麦酒とBlack Tide Brewingで研修を積ませていただきました。
伊勢角さんに関しては、やっぱり品質ですよね。どのビールも高品質。
常温流通で量販店向けの商品開発をしつつ、ビアバーが喜ぶような商品もいっぱい造られていて、その両輪を回している。僕の理想の醸造所に近かったんです。

さらに驚いたのが、酵母の扱い方がすごく丁寧で慎重。
発酵中のビールの状態確認はもちろん、新しく酵母を入れるときには、その酵母を顕微鏡で見ていました。毎回ちゃんと必要な数が動いているかを目でチェックしてるんです。すごいなと思いましたね。クリーンルームで酵母の培養も手掛けていて、「ここまでやるのか」と圧倒されました。
Black Tide Brewingは、比較的新しいブルワリーですが、すごく勢いがあって、商業施設の中に醸造所があるところがOUR BREWINGとの共通点。単純に醸造スキルを学ぶ以外に、経営というか、醸造所を回していくチャレンジの部分も学びに行きました。スタッフそれぞれが、役割を目一杯果たそうとする姿が印象的で、自分達もこんなチームにならないと生き残れない、と感じましたね。
トップレベルのブルワリーの現場を見ることで、進むべき道筋が見えました。

そうして2024年3月、ご縁があって福井駅前の商業施設に醸造所を開業。
うれしいのは、地元の人も「おいしいね」って言ってくれること。それが一番ですね。
県外から観光客も多いです。「福井の人が羨ましいですね」とか、「近くに来たら絶対寄るようにしてる」って言ってくださる方も多くて、すごくうれしいですね。

OUR BREWINGは、生産者や消費者、地域、記憶、すべてが混ざり合った“みんなのための醸造所”になりたいという願いから名付けています。ロゴマークを吹き出しや泡のような形にしたのは、「人と人とのコミュニケーションを生み出したい」という思いと、OUR(アワー)の音から連想される「ビールの泡」に見えるように。グレーを採用したのは、「絵の具セットの全て色を混ぜるとグレーになる」という話から着想を得て、「多様性」をあえてグレーで表現しています。
福井県産の大麦を使ってこの土地の水でビールをつくりながら、地元に根ざし、地元の人の誇りになりたい。そのためにも、日々レベルアップして質の高いビール造り続けなければと思っています。人種や文化、国境、言葉を超えて、OUR BREWINGのビールで、人や世界がもっとつながりますように!
取材・文/山口紗佳
【公式HP】https://ourbrewing.com/
【Instagram】https://www.instagram.com/ourbrewing/
【X】https://x.com/ourbrewingfukui
すべてのビールに福井県産の大麦を使い、この土地の水で「シンプルにおいしい」を突き詰めています。自由で多様であるっていうのがビールのいいところだと思うので、お好きなタイミングで、自由に楽しんでいただければ!
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