ビールの縁側

長濱浪漫ビール(滋賀県)のはなし

尖った味ではないかもしれない。 その分、どれを飲んでも外さない安心感と質の高さは世界に誇れるもの

滋賀県北東部、琵琶湖のほとりにあり長浜城の城下町として栄えた長浜市は、伝統的な建築物が集まる県内有数の観光スポット「黒壁スクエア」など、現在でも当時に面影を残す情緒ある町並みが広がっています。そのレトロモダンな風景にとけ込むように佇むのが、米川に面した「長濱浪漫ビール」のブルワリーレストランです。江戸時代から続く築100年以上の米蔵を改築した醸造所は1996年にビール醸造を開始。2016年からは施設内に「長濱蒸溜所」を開設して、クラフトウイスキーの製造もしています。ブルワーの上村雄大さんにお話を聞きました。

ビールとウイスキー造りの両立が、モルトの自由な世界を見せてくれた

 

ビールもウイスキーも主な原料は麦芽で、麦汁を造るまでの工程はとても似ています。使う麦芽や酵母の種類、管理など細かいところでの違いはありますが、もろみの原料はほとんどビールと同じ。麦汁にウイスキー酵母を投入して、発酵してできあがったもろみを蒸溜器に送って蒸溜しているんです。つまり、ウイスキーの仕込みにもビールの設備を使っています。

 

蒸溜釜の容量が少なくて手作業が多いので、蒸溜器はほぼ毎日稼働。

 

ビール醸造の合間にウイスキーの仕込みをする感じですね。設備が共有できるので工場内でビールとウイスキーどちらの製造もしています。温度管理や設備の洗浄、メンテナンスなどビール造りで培った経験はウイスキー造りにも活かされていますし、ウイスキーで使った樽にビールを詰めて熟成させたらバレルエイジビールが造れます。両者の設備やノウハウを共有することで、合理的な生産体制がとれて、より自由でおもしろい商品が造れるんです。そこがうちの強みでもあります。

 

1996年に長濱浪漫ビールが誕生して2021年の今年は創業25年目。

 

開業当時からある定番ビール3種類はどれもオーソドックスなスタイルですが、滋賀県産の地元素材を使った料理と合うように造られています。フラッグシップの「長浜エール」は、アメリカンホップ由来の柑橘系の爽やかな香りをまといつつも、ボディがしっかりしているので肉料理やスパイシーな料理によく合います。「淡海ピルスナー」は1杯目の乾杯におすすめ。ドライな飲み口が特徴のボヘミアンスタイルのピルスナーです。どの料理とも合わせやすいですが、特にフィッシュ&チップスのような揚げ物と相性抜群ですね。バナナのようなフルーティな香りとなめらかな口当たりが特徴の「伊吹バイツェン」は、サラダやマリネ、郷土料理の鮒ずしのように軽くてさっぱりした料理やデザートと合わせるとおいしさが引き立ちます。ビールの苦味が苦手という方に人気です。

 

うちは地元に根付いたブルワリーレストランなので、近江牛などの湖国名物と一緒に何杯でも楽しめるようなビール造りをコンセプトにしています。

 

伝統の定番と季節限定の創造性で技術を磨き、いつか思い描くビールを

 

地元のお客様に安心して通ってもらえるように、長年一途にレギュラー商品の品質を磨いてきましたが、僕が入社した3年前からはシーズンごとの季節限定商品にもチャレンジするようになりました。季節限定のビールでは果物やハーブ・スパイスなどの副原料を使って、定番ビールとは違ったユニークな味わいを楽しめるようにしています。珍しいものではザクロを使った「ザクロエール」や、桜の花と葉を使った桜餅のような風味を感じられる「Yell Ale」ですね。これは新型コロナウイルス感染症と闘う医療従事者の方を筆頭に、大変な世の中を生きるすべての人を応援したいという想いを込めて、春にリリースしたものです。

 

今年の夏にリリースした季節限定の「はっさくウィート」は、八朔をパウダー状にしたものとコリアンダーを使ったベルジャンホワイトです。実は、これはブルワー歴3年目にして初めて僕がレシピから考案した商品でした。副原料を使ったらビールにどんな反応が起こるんだろう?って、仕込み中は想像しきれない怖さとワクワク感がありましたね。事前にテスト版は造っていたんですが、狙い通りの味になってほっと胸をなでおろしました(笑)。長年レストランに通ってくださる常連のお客様に「おいしい」と言っていただけたことがうれしかったです。お客様からそういったフィードバックをいただけると、造り手としてやりがいを感じます。ですから、長引くコロナの影響で催し物の中止や延期が続いているのはとても残念ですね。お客様と直接やりとりできるイベントが好きでしたから……。

 

自分が手掛けたビールをおいしく飲んでもらえるものづくり。

 

お客様の笑顔を見ると、あのとき思い切ってビールの世界に飛び込んでよかったなぁと思います。

 

実は、ここで働くまで長濱浪漫ビールのことは知らなかったんです(笑)。

 

友人の紹介で学生時代にアルバイトとしてレストランで働きはじめたんですが、そこで初めてビールの醸造所があることを知りました。自社のビールを飲んでみたら、今まで自分が知っていた普通のビール、いわゆるピルスナーとは全然味が違うじゃないですか。世の中にはさまざまな味のビールがあることを知って、そこからいろんなクラフトビールを飲むようになりました。そして、あるときバーで先輩から教えてもらったブリュードッグの「パンクIPA」を飲んだんです。あれにはもう……ビックリしましたね(笑)。

 

あのみずみずしい鮮烈なホップの香り。ホップを大量に使っているのに苦味はそれほど強くなくて、あんなにホップアロマが力強いのに、驚くほど飲みやすくてきれいな味わい。クラフトビールブームの火付け役となったことも納得の完成度の高さでした。それをきっかけにすっかりビールにはまって、いつしか僕は就職先を考え直すほどになっていたんです。就職活動をして化学系の企業から内定をもらっていましたが、「本当にこのままでいいのだろうか?」って思い始めて。その頃には自分の好きなことをライフワークにしたいと思うほど、ビールに対する思いは強くなっていました。

 

大学では植物遺伝子学を専攻していて環境微生物なども学んでいたので、発酵や醸造についての興味が強かったこともあります。

 

こうして大学卒業後にしばらくして、レストランのアルバイトから醸造部門に移ることになって、今ではビールもウイスキーも造っています。

 

長濱浪漫ビールは創業時から定番ビールの味を磨き続けてきたブルワリーです。

 

原材料のセレクトからレシピの見直し、製造工程の改善を繰り返して、レギュラー商品の完成度を高めてきました。味のバランスを追求した正統派のビアスタイルなので、トレンドの最前線にあるような尖った味わいではないかもしれません。その代わり、どれを飲んでもハズレがない安心感がありますし、世界にも胸を張って出せる品質を維持しています。

 

そんな伝統的なレギュラービールに加えて、さまざまな原材料やビアスタイルに挑戦する季節商品を造ることで醸造経験をさらに積んで、いつか自分の思い描くビールを造るのが夢ですね。

 

取材・文/山口 紗佳

鈴木オーナー

自宅で料理とあわせて飲むのもおすすめですし、ピクニックやBBQなどのアウトドアでも、シーズンを通して楽しめるビールです。どんなシーンでも寄り添ってくれます。長濱浪漫ビールの安定したおいしさをフレッシュな樽生ビールでお届けします!

OTHER BREWERIES

その他のブルワリー

福島のおいしいビールをお届けすることが一番の恩返しになるから、技術を磨き続ける。

みちのく福島路ビールは、福島市郊外の丘陵にあるアンナガーデン内に1997年に創業された家族経営の醸造所。吾妻山系を臨むうつくしいガーデン内で、厳選された原料と地元の果物を使ってつくられるビールにはファンも多くいます。現在醸造長を務める吉田真二さんは、2009年にホテルの仕事からビール醸造の世界に飛び込みました。醸造への不安や、東日本大震災によって何度も壁に当たりますが、その度に手を差し伸べてくれたお客さんやブルワー仲間、家族がいました。多くの人たちとの助け合いの輪が、今のみちのく福島路ビールのおいしさにつながっています。

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福島路ビール

福島県福島市

もっと自由に!もっと面白く!もっと気軽に!クラフトビールを身近なものにしたい

「Vector Brewing」がある東京都台東区浅草橋は、下町の情緒が残るモノづくりの町。2016年に新宿で誕生した醸造所は、2017年に醸造の拠点を浅草橋に移し、常に“面白い”ビールを発信しています。それはクラフトビールをもっと自由で気軽に楽しんでもらうため。ユニークなデザインとネーミング、豊富なラインナップは初心者でも手に取りやく、クラフトビールファンをジワジワと増やしています。元銀行員でラガーマンだという異色の経歴をお持ちのブルワー三木敬介さんにお話を伺いました。

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VECTOR BREWING

東京都大田区

「Beer is Art」を胸に、北海道・江別ならではのビールを育みたい

北海道の中部、石狩平野の中央にある江別市は、国産小麦の代表格として知られる「ハルユタカ」が生まれた土地。パンや麵、スイーツ、ビール醸造に適した国産品種がいくつも誕生した日本有数の小麦の産地です。札幌市の中心部から近く、空港や港湾へのアクセスも良いことから、生活に便利なベッドタウンでもあります。その江別自慢の「ハルユタカ」を使ってビールを醸造しているのが、2009年から江別市で醸造をしている「NORTH ISLAND BEER」。元ヘッドブルワーで現在は取締役工場長を務める多賀谷壮さんにお話を聞きました。

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NORTH ISLAND BEER

北海道江別市

ベルギーと日本、そして世界中へ。
ビールでつなぐ人の円が、広がりのある未来を見せてくれる

「RIO BREWING&CO.(リオ・ブルーイング・コー)」は、ベルギービール名誉騎士である菅原亮平さんが2015年にベルギー現地法人にて設立したブランド。特定の醸造所を持たないファントムブルワリーを経て、2018年に東京・五反田に自社醸造所を構え、2021年に千葉県柏市に拡大移転しました。運営するEVER BREW株式会社は、「デリリウムカフェ」「ベル・オーブ」「ブラッスリー セント・ベルナルデュス」「ブラッスリーMUH」「ウルビアマン」「ブッチャー・リパブリック」等、ベルギービールやクラフトビールを主軸とした飲食店を多数展開しています。RIO BREWING.COの代表、菅原亮平さんにお話を聞きました。

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RIO BREWING & CO.

千葉県柏市

和歌山のええとこはウマいもんが教えてくれる、だから有田のええもん使ってるんです。

和歌山県の中央部に位置する有田川町は、東西に流れる有田川を中心に豊かな自然景観が広がるまち。温州みかんの名ブランド「有田みかん」や、生産量日本一を誇る「ぶどう山椒」をはじめとして、柑橘類やすもも、キウイ、トマトなどの名産地として知られています。その有田川町にある酒販店「青木屋酒店」が2017年に設立したのが「ブルーウッドブリュワリー」。地元有田川の季節の特産品を取り入れたビール造りを心がけているマイクロブルワリーです。オーナーで醸造責任者の児島章さんにお話を聞きました。

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ブルーウッドブリュワリー

和歌山県有田川市

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