Y.MARKET BREWINGの(愛知県)はなし
好きなことをやってお給料ももらえるなんて
いいの!? って思うぐらいビール造りが楽しくて!
Y.MARKET BREWING
愛知県名古屋市
日本の3大都市圏に数えられる名古屋市は、自動車を筆頭に製造業が盛んなものづくり都市。食文化では味噌ベースや定番料理に特有のアレンジを利かせた「名古屋めし」で知られ、名古屋駅から徒歩圏内にある「柳橋中央卸売市場」が名古屋の台所を支えています。笑顔と活気あふれる柳橋市場で創業し、生まれ育ったふるさととして名前の由来としているのが「Y.MARKET BREWING」と直営レストラン「Y.MARKET BREWING KITCHEN」です。2014年1月の創業時からヘッドブルワーを務める加地真人さんにお話を聞きました。
ここにはビールがおいしくなる条件が揃っている。
そろそろリアルで乾杯したいですよね。
マスク越しやモニター越しじゃなくて、気兼ねなくみんなでワーッとね(笑)。
ビールって人を陽気にするものだと思うから。初対面や関係が浅い人とも、ほろ酔いならフランクに話せることってあるじゃないですか。そんな潤滑油のような演出ができるモノづくりに携われるのは幸せですよ。ビールを介して、人と人がつながってコミュニティが育っていくのを見るとうれしいですよね。なんだか満たされた気持ちになるし、自分の好きなことをやってお給料までもらえていいの!?なんて思うことも(笑)。
それぐらい夢中になれるんです、ビール造りに。
ビール造りのワクワクはカナダでホームブルーイングを覚えた頃と同じ。とにかく造るのが楽しくて、すぐに充填する瓶が足りなくなって。だから、あの頃はあまりうまくないビールを造ってはよく友達にふるまっていました(笑)。もちろん今とは規模も品質もまるで違うけど、ビール造りの楽しさは変わりません。ただ、プロとしてビールを造るようになってからは、おいしいビールができたら終わり、じゃないんです。
品質を維持できる醸造設備に技術と知識のあるブルワー、それに加えて、ここ(Y.MARKET BREWING)には、ビールがさらにおいしくなる料理や会話が弾む空間、愛情をもってビールを提供するスタッフと、それを後押ししてくれる会社がある。
おいしいビールを楽しめる条件が揃っています。
僕──「Y.MARKET BREWING」が目指しているのは、個性的で、自由で、奥深くて、驚くような感動もあって、ひたすら楽しい「クラフトビール」というカルチャーが当たり前の世界になること。2014年のオープンからそれを念頭に活動してきて、おかげさまで今ではビール好き以外の方にもY.MARKETを知ってもらえるようになりました。この流れを途切れさせず、次の世代を任せられる後進を育てること、技術のある若手ブルワーを育てることも僕の役目です。
これ以上の品質を追求するならプロになるしかない。 自家醸造でできることをやり尽くしたカナダ時代
僕がこのライフワークと出合ったのはカナダのモントリオールです。
その前は岐阜県中津川市にある和菓子屋で働いていましたが、地元というぐらいの理由で就いた仕事だったので、このままでいいのか疑問を感じるようになって、28歳でワーキングホリデーを使ってカナダに飛び出しました。当初は英語を身につけるために3か月ぐらいで帰国する予定でしたが、早々に資金が尽きてしまって(笑)。帰りの航空券も買えないレベルだったので、就労ビザを取って、日本食レストランで正社員の副料理長として働いていました。短期バイトと違って懐にも余裕ができたので、あるとき友達と街のブリューパブに出かけて飲んだのがクラフトビール、初めて味わったIPAでした。
「こんなビールあるんや!」ってまず驚きましたよ。
大手のピルスナーしか知らなかったので、ホップの香りと苦味がきいたビールが衝撃的だったんです。一口にビールといってもさまざまな味があることを知って、ビールの既成概念がガラガラと崩壊。そこからビールにのめり込んでビアバー巡りを始めました。そんなあるとき、モントリオールの人気ブルワリー「Dieu du Ciel!」に出掛けて、当時ヘッドブルワーを務めていたルーク(Luc Bim Lafontaine氏)(※1)に「興味があるなら自分で造ってみたら?」ってホームブリューをすすめられたんです。ビールは大きな工場でしか造れないと思っていたのでキッチンで造れるとは思いませんよね。カナダでは自家醸造が合法なので、趣味として自宅でビールを造る人が多いんです。すぐにホームセンターでビールキットを買って帰りました(笑)。
最初に挑戦したのはインペリアルスタウト(※2)。でもアルコール度数は4%(笑)。
水っぽくて全然おいしくなかったけど、それでもビールになったことに興奮したものです。それからすっかりビール造りに夢中になって、ホームブルワーとしては一通りやり尽くしました。もっとおいしいものを造るためにはプロになるしかない。ブルワーとして自分がどこまでできるのか、高性能な機材を使って仕事として醸造を続けたいと思って帰国を決意しました。カナダでブルワーにならなかったのは、英語に加えてフランス語の習得も必須なのと日本食が恋しかったから(笑)。
帰国してすぐに面接を受けて入社したのが長野県の「木曽路ビール」(※3)、山あいのホテルにあるレストラン併設ブルワリーでした。そこで8年間、特に力を入れたのが醸造スケジュールの見直しや設備改修などクオリティアップと外販です。自社レストランだけでは消費に限界があるのでイベントに出店したり、審査会に出品したり、積極的に売り出すうちにビアバーからの引き合いが増えましたが、ホテル業がメインでビールの優先度が高くなかったことから、思うように新しいことに挑戦できなくて。ジレンマを抱えていたとき工場見学に来たのが今の社長、株式会社おかだやの山本康弘社長です。
ずいぶん熱心だったので詳しく聞けば、名古屋でブルワリーを立ち上げたいと。
話すうちに会社として真剣に取り組む姿勢に共感して、「ここならきっと新しい世界が開ける」と感じて立ち上げから関わることになりました。どうせやるなら最初からぶっ飛んだものを造りたいと、ホップの個性を全面に出したIPAを次々とリリースしたインパクトもあったせいか開業直後から評判は上々。飲食店からの注文も殺到して、すぐに工場増設の話が持ち上がるほど品薄状態でした。
2019年の工場増設によって製造量が上がっても目指すビールは同じ。
どんなビアスタイルでも、同じ銘柄を最後まで飲み続けられるぐらいドリンカビリティの高いものと、ビールの楽しさ、遊び心を感じられるもの。それにはブルワー自身が楽しみながらビールに接することが前提だと思います。“楽しいモノ”は楽しんでいる人から生まれますから。
とはいえ、無計画で新しいことには手を出しません。
今後挑戦してみたいこともありますが、それには原材料や設備環境、情報集めなど「条件」が整ってから。ゴールを明確に定めてから組み立てます。そこは慎重なんです(笑)。
確実においしいものを飲んでもらいたいですから。
※1 うしとらブルワリー(栃木県)の初代ヘッドブルワーで、日本国内でさまざまなブルワリーの技術指導を行い、現在はトロントの「GODSPEED BREWERY」でヘッドブルワーを務める。
※2 ローストした大麦を使い、濃色で高いアルコール度数を持つビールのスタイル。複雑で濃厚な飲み口と重厚な麦芽風味が特徴。
※3 1997年~2018年3月まで長野県木曽郡南木曽町の「ホテル木曽路」内のレストランで醸造していたブルワリー。
取材・文/山口 紗佳
ライトなものからハイアルコールのフルボディまで、何杯飲んでも飲み飽きないのがY.MARKETのビール。僕がカナダで初めて飲んで感動したIPAのように、ビールを通して驚きと感動、何よりも楽しさを届けられたら。いつかリアルで乾杯しましょう!
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